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病の細道

 

第71回 心臓冠動脈 (2002/04/19)

 

心臓の役割は単純だ。だが、動いているからその存在を自覚することのできる唯一の臓器なので親しみも深い。役割は血液を循環させるポンプで、他の臓器のように内分泌液を製造したり組成を変換させたりといった複雑で高度な働きはしない。組織は筋肉でできていてとりたてて複雑な機能をもった細胞もない。

心臓から送り出された血液は、肺から酸素を取り込んで全身をめぐり他の臓器や組織が活動するための酸素を供給する。酸素が供給されないと組織の機能は不全に陥る。

これは心臓の場合も同様で、心臓自身の筋肉が動くには血液から酸素と栄養の供給をうけなければならない。つまり自分の送り出した血液を自分自身のために自分自身に供給しなければならないというわけだ。

心臓には、血液を受け入れる心房と送り出す心室があるが、人間の場合は左右にわかれ2心房2心室より構成されている。また4つの弁があって血液の逆流を防止している。
全身をめぐって戻ってきた静脈流はまず右心房に入り、三尖弁を通して右心室に移り、肺動脈弁を通して肺に送り出される。肺で酸素の供給をうけた新鮮な血液は左心房にもどり、僧坊弁を通じて左心室に移り、動脈弁を通じて全身に送り出される。

心臓の筋肉の外表面には3本の冠動脈という血管がある。右心房心室側、左心房心室側と、それらを隔てる壁沿って中央部にあり、それぞれは細かく分岐しながら網目状に全体に広がっていく。冠動脈が閉塞し詰まると血流が悪くなって心不全や心筋梗塞を起こす。

冠動脈の閉塞場所や程度にもいろいろある。軽度のものでは薬剤の投与で血液の流れをよくして治療することもできるが、冠動脈の根元付近に中程度の閉塞がある場合はカテーテルをいれて風船を膨らまして押し広げるバルーン療法が行われる。ここまでは内科的な療法だが、閉塞したところがいくつもあり詰まりの程度が大きい場合は外科的なバイパス手術が必要になる。

バイパス手術では、文字通り、血管の詰まった部分を別の血管でつないで迂回して血流を回復する。複数ヵ所同時に行うことができる。あらたに用意する血管は自身の体内にある他のとこ
ろから移植する。このため拒絶反応は起こらない。初期のころは太股の大伏在静脈が使われたが、静脈官であるので動脈の圧力にはやや弱い面もありコレステロールもたまりやすい。現在の主流は内胸動脈や胃大網動脈という動脈の一方だけを切断し、それを直接冠動脈につなぐ。この動脈はもともと動脈なので耐圧性にすぐれ、しかもコレステロールが付着しにくいとされる。

自分の心臓の冠動脈は3本とも閉塞があり、とりわけ左心房心室側の血管は90%以上つまっていた。中央の冠動脈には根元に閉塞があった。ここが詰まると最も致命的といわれる。

右心房心室側の冠動脈も先のほうに細かい閉塞が複数あった。全体の状況はかなり深刻で、普通これだけの閉塞が起これば胸がかなり痛くなるらしいが、自分の場合、糖尿病があったので痛みの自覚がなかった。執刀医によれば、最初にカテーテル検査をした医師は、痛みがないからたいしたことないだろう予想して検査だろうから余りに閉塞が多くてびっくりしたはずだ、といっていた。

結局、3本目の冠動脈の閉塞場所は先にあり血管が細すぎてバイパスはあきらめ、1本目と2本目の冠動脈には胸と胃の動脈をつかってバイパスすることになった。

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