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病の細道

 

第63回 宇宙旅行 (2002/04/07) 

 

9日の手術まであと2日になった。現在の心境はとても淡々としている。もっと緊張してくると思っていたがそうでもない。時間が迫ってくればやはり平常心というわけにはいかないだろうから、今思うことは今書いておくべきだろう。

昨年暮れに入院したときに今度の病は自分の人生にとって大きな節目になるだろうという予感がしていた。子供のこと、家族のこと、生活のこと、仕事のこと、さらに世の中の激変、そして老齢期のはじまり。回りのすべてが単なる日常の繰り返しではなく質の変化を告げていた。

そこで思ったのがやはり「自分は旅人」ということだった。これは「人生は旅」といった高尚な一般論ではなく、文字どうりあちこちを旅していろいろなものを見て歩くことが好きだというそれだけのことなのだが。

一生をほとんど同じ場所で暮らすという人もいる。あるいは逆に一生あちこち彷徨う人もいる。仕事で年中旅している人もいる。そもそも旅においては他人との比較は意味がないが、自分の場合は、単なる気晴らしや仕事、やむをえずホームレスになったというような旅とはちょっと違うかもしれない。

自分の旅は、興味あるものを見たいという、いわばやじうまである。旅といっても、いろいろな場所を移動することばかりではなく、動くことのない旅もある。今はインターネットにはまっているがこれなどはその典型かもしれない。変わったところではドラッグのトリップというのもある。若いころはLSDの旅を繰り返した。

たしかに今度の病の旅はこれまで経験したものとはちょっと違う。だが、やはりどこかやじうま根性があって、「病も旅のうち」と単純に思ってしまう。ましては入院当初では考えてもみなかった心臓バイパス手術まで受けるとなっては、もうこれは二度とないチャンスだなどと不謹慎に思ってしまう。

もちろん深刻な状態には違いない。最初はもうダメだとばかり考えていた。でもバイパス手術のことを調べていくうちに、案外成功率が高く後遺症もあまりないことが分かると気分が楽になっってきた。痛みがないし、苦しくもない。ガンのように悲惨な感じがしない。

今の気分。宇宙旅行をめざす人もこんな心境なのかもしれないと思う。宇宙旅行という未知にたいする興味。ただそれだけの動機から危険は承知のうえで宇宙船に乗る。生還できる保証はない。でも行く。自分の場合は手術台に乗って心臓を止める。危険はあるが、その分、そこにはどんな宇宙があるのか興味も大きい。

先日、看護婦さんがインスピレックスという器具をもってきた。プラスチック製の簡単な装置で呼吸訓練に使う。ホースから息を吸うとシリンダ管の中の玉が上昇し止めると落ちる。ダイヤルが付いていて玉の上がり具合が調整できるようになっている。思い切り吸ってできるだけ玉を頂上に留める。結構きつい。これを1セット10回で日に5,6回やっているのだが、その度に宇宙旅行の訓練みたいだなと思いながら繰り返している。 

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