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病の細道

 

第61回 新らしい世界 (2002/04/03)

 


転院まであと一日になった。昨年の暮れに入院してから3ヶ月。思ってもみなかった長期の入院になった。明日からは別の病院でさらに入院が続くのだが、やはり大きな区切りには違いない。新たな出発を控え、いよいよだという気持ちとちょっとさびしいような気分が入り混じる。

ここに入院したとき、ここはリゾートホテルではないかと半ば冗談で思ったりしたが、でも今では本当にその通りだと思う。
たまたま自分の場合は、他の患者さんのように痛みや苦痛に悩まされることもなく、あらゆる無理はせず、ただ安心してベッドに身を横たえていればよかった。

看護婦さんはひたすら優しく、食事はおいしかった。パソコンで日記を書き、本を読み、音楽を聴く。息子といっしょに勉強をし、シャワーを浴びて、眠る。どこにも出かけられないという状態もけっして悪いものではなかった。本物のリゾートでは常に次に何をしようか思案しなければならないが、そんな煩わしさもない。

無理もせずひたすら自然体で時に身をゆだねていた。季節が実りをもたらし新しい生命を育むように、ここでの時間は自分に思わぬ成果と新しいつぼみをもたらしてくれた。

収穫の喜びは、何よりもこの「病の細道」だ。自分に向き合い自分がこれほどいとおしく思ったことはなかった。メールでたくさんの人に読んでもらえたこともうれしかった。人とつながっているという実感はかけがえのないものだ。またCDの作成を通じて、息子にものを創るということを教えることができたのはとてもよかった。オルカフェスタで賞までいただいたのは望外のことだった。

新しいつぼみも、とりわけ大人の人生においては、日常の慌しさや厳しさのなかでいつのまにか萎んでしまうことが多いものだが、幸運にも今回は入院という一種の暖かさが自分の中に芽生えつつあったつぼみをまもり育ててくれた。

2年ほど前からWindowsが支配するパソコンの世界に息苦しさを感じるようになった。便利だが企業の論理で管理され自由な息吹がなくなってしまった。新鮮な空気を求め窓をあけるとそこにはリナックスの世界があった。しかしいままで馴染んだ世界を離れ新たな世界に向かうのは新しい言語を習得しなければならない。大変な努力を要する。

本をいくら積み上げても読まなければ何も身につかない。一行一行を読み、その意味を理解していくのだ。学生でもなく、教師もいない。仕事に追われている慌しい日常のなかでは続かないのが相場だ。だが入院という時間はそのチャンスを授けてくれた。

先の章に進むのがうれしい。新しいつぼみが大きくなっていくのがわかる。


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