第43回 小径 (2002/02/05)
昨日、心臓のこれからの治療をどう行うべきか専門医の診断をうけた。
現在入院中の病院には心臓外科部門はないので一時外出して、近くにある県立の総合病院を訪れた。1ヶ月半ぶりに出た外は眩しかった。暖かく、柔らかな日光が注いでいた。しかしいったん道路に出るとあいかわらず車がせわしなく走っていて落ち着かない。
紹介状はあるが、あたらしい病院では外来だ。手続きを済ませると真新しいカルテが用意された。振り出しに戻るわけではないのだが、もう一度もとに戻らされたような気分だった。大きな病院だけあって大勢の外来患者が行き来していてやはり落ち着かない。
しばらく待って診察室に呼ばれた。外科かと思っていたが内科の循環器先生だった。既往症などのいくつかの質問のあと、胸や背中ばかりではなく腹から足にかけても聴診器で詳しく診られた。いかにも循環器の医師らしかった。
事前にカテーテル検査の映像を見ていて心臓の状態については詳細な検討がなされていた。簡単な説明を聞いたあと、こちらの知りたい2点について質問をした。
はたして自分の心臓に対してバイパス手術が可能なのか?
手術するとすればそれまでの時間的な余裕がどれだけあるのか?
バイパス手術は可能。しかし単純な症状ではないので、どこまでやるべきか微妙なところもある、ということだった。バイパス手術の場合、心臓にできるだけ負担がかからないように短時間に終える必要があるため、あまり細かいところに時間をかければリスクも大きくなってしまう。最終的に何箇所バイパスするかは手術中にしか判断できないらしい。
時間的余裕については、かならずしも心臓に十分な余力があるわけではなく何とも判断が難しい、とのことだった。とりわけ痛みなどの症状が出にくい人の場合は事前のシグナルがないのでいきなり大事に至る可能性が大きく、また、今回のやけどのような突発的な事故にあった時には心臓に負担がかかリ過ぎるというリスクもある。事情がゆるせば手術は早いほうか良いと言われた。
さらに、糖尿病の場合には免疫力が低下するので感染症にかかりやすく傷もなおりにくいので、手術にあたっては厳格な血糖コントロールが必要になる、とのことだった。
診察の時間は1時間に及んだ。大事なものごとを決めるのに1時間はむしろ短いが、進むべき道ははっきり見えた。
時間的な余裕があれば東京のほうに引っ越してから手術をうけることも考えていたが、それは不確定な要素が多過ぎる。退院していったん家に戻り、用事をかたづけ、養生してから再び入院して手術に臨むという案もあったが、食事のことや血糖コントロール、家族の負担などのことを考えると
得策とはいい難い。
入院をしながら、できるだけ早く手術をする、というのが最善の道だと判断した。入院していればこれまで続けていた血糖コントロールもそのまま生きるし、食事や生活の乱れの心配も要らない。
手術の成功確率は98パーセントとはいえ、道が途切れることもあるのかもしれない。しかし、わずかな霧の晴れ間に見た小径は希望の広場にもつながっている。
おもてに出るとやさしい春の日差しがあふれていた。
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