第42回 残された難関 (2002/02/04)
入院してから45日。いくつもの難関があった。かっては不治の病といわれた敗血症、やけどの傷の壊疽による足の切断の危機、糖尿性網膜症による失明の恐れ、呼吸不全、そして血糖値。幸いなことに、点滴による抗生物質の投与、インシュリンによる血糖値コントロール、徹底した消毒、酸
素吸入などの治療で当面の危機はのりこえることができた。
しかしまだ最大の難関が残っている。心臓だ。カテーテル検査の結果、冠動脈に深刻な閉塞が見られ、いずれ心臓のバイパス手術が必要だと宣告された。予想していないことだった。しばらくは落ち込み、家族に遺言めいたことばかり話していた。
普通、心臓が悪いといわれればそれだけで最悪のことを想像する。肝臓や腎臓などと違い心臓は動いている。臓器のなかでその存在を直接自覚することができる唯一の器官だ。誰だって心臓が止まれば次の瞬間にどうなるか直感的にわかる。それだけにいっそう深刻感が漂う。だが調べてみると意外なことがわかってきた。
心臓バイパス手術は1960年代の終わりころ始まった。心臓移植手術は同年代の初頭に行われているからそれよりも後ということになる。
移植の場合は提供者が必要なことと拒絶反応という難しい問題があるが、バイパス手術の場合は自分の血管を移植して使うのでそうした問題はおこらない。
また、バイパス手術の効果はめざましく、ウソのように症状が改善されるという。しかも、現在では技術の進歩で成功率は90パーセント以上で、術後2週間で退院、普通に生活できるようになるという。もしその通りなら、定期的に透析を続けなければならない肝臓病などに比べればむしろ深刻度は少ないといえるのかもしれない。
今日、心臓外科の専門医の診察をうける。はたして自分の心臓の状態はバイパス手術に適応するのだろうか? 手術をするとすれば、その緊急度はどのくらいなのだろうか?
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