トラベルメイト Top Page へ

<<前のページ 次のページ>>

病の細道

 

第11回 耳鳴り (2002/01/04)

 

2,3日前から体温は平常にもどり37度をこえることもなくなった。やけどの傷口からの出血もほぼおさまった。かわって膿が出る。回復は順調とはいえないかもしれないが、それなりに良くなっている。相変わらず点滴と消毒がつずく。傷を圧迫できないので歩行は禁止されたままだ。大便のときは車椅子を使う。

体がもとにもどりはじめ、正月も3が日をすぎるとなんとなく日常がもどってきた。いつもの肩こりや耳鳴りが復活しだした。高温でうなされていた時にはなんとなく消えていたのだが、気が付くと耳鳴りがしている。

耳鳴りというのはどうしておこるのかよくわからない。通常の外の音と同時に聞こえるから、内からおこってくる音のようにも感じられる。最近ではないが、以前ひどいときには、外で蝉が鳴いていると錯覚するようなこともあった。

耳鳴りと外音がまったく違うものであることをはっきり知ったのはイスラエルを旅しているときだった。数日前エジプトのカイロの博物館でラムゼス2世のミイラをみた。彼はとても自己顕示欲の強い人だったらしくミイラになっても片手を上げていた。その晩、ミイラのなせるわざか、寝ながらうなされあげくに風邪をひいてしまった。
イスラエルにもどりエルサレムからタクシーで死海の近くにある荒野にいった。荒野はイエス・キリストが悪魔と対決したとされるところだ。エルサレムは標高800から1000メートル位の丘の上にあるが、死海は海抜下800メートルのところにある。高度差1600メートルをタクシーは15分位で下ってしまう。

風邪をひいていたせいか急激な気圧の変化に耳がついていけなくなった。音が聞こえなくなりぼそぼそという感じだけになった。ところが耳鳴りは大きく聞こえる。このとき耳鳴りが外音を感じ
る聴覚とはまったく異なる現象であることを知った。荒野からエルサレムにもどると、ボソッという音とともに聴覚がもどった。

ガレリオ瑚を流れ出たヨルダン川は南に向かうが死海で行き先を失う。死海あたりは深い海抜下にあり大きな穴のような形になっている。普通だったら海水で満たされて海になるところだが、極度に乾燥した礫漠地帯なので水は蒸発し濃い塩分だけが残る。死海の塩分濃度はとても高く生物は生きられない。浮力が大きいので体を浮かせて新聞も読めるほどだ。

エジプトのミイラといい死海といいこの地域の文化や地形は何かが違う。地球に特異点があるとすれはまちがいなくここもそのひとつだ。キリストが生まれ活動した重要な場所でもあるが、近年
のパレスチナ紛争の舞台で、現在の世界を覆う暗雲もここからたちのぼっている。
荒野での体験以来、飛行機などにのると耳がおかしくなるようになった。聞こえなくなったりすることはないのだが2,3日低音が聞き取りにくくなる。最近は、2週間に一度、沖縄と東京を飛行
機で往復する生活がつずき完全に耳が遠くなった。補聴器をつけるまでにはなっていないが、フェミミという集音器のお世話になっている。

耳が聞こえなくなるというのは、不快な音に悩まされなくてよいという一面もあるがやはり不便だ。コミニケーションが取りにくくなる。発音がよくわからない外国語を聞いているようだ。最近テレビをほとんど見なくなったが音が聞きずらいことも原因しているのかもしれない。

アラスカからの帰り、シアトルのタコマ空港で飛行機を待っていたら一人の男が近ずいてきてキーホルダを差し出した。タッグが付いていて、それには「私は耳が聞こえません。これを10ドルで買ってください」と書かれていた。後で思った。これはセールストークもいらない究極のセールス方法なのではないか。耳が聞こえない人の知恵かもしれない。

<<前のページ 次のページ>>


E-mail:mail@travelmate.org
これは Travel mateのミラーサイトです。
ページ編集・作成:@nifty ワールドフォーラム