第10回 複眠 (2002/01/03)
病院では、毎朝、「よく眠れましたか?」と質問される。いつもちょっととまどう。よく眠ることが深く眠ったという意味なのか、眠れなくって苦労したということなのか、はたまた満足した眠りが得られたということなのだろうか。いつも答えはあいまいになる。
不眠症に苦しむという人がいるが、自分にはその苦しみがよくわからない。というのは寝るのに苦労することはほとんどないし、全然眠れないということもないからだ。いつも深い眠りかといわれれば必ずしもそうでもないが、たいていの場合満足感がある。
いいことなのかそうでないのかは分からないが、自分の睡眠のパターンは普通とは違っている。一日に何回も寝る複眠なのだ。主に夜眠って補いとして昼寝をするというのではなくって、一日に3、4回同じような長さで眠る。ときには一日中眠る。
勤めに出ている人はそうはいかないが、自分はプログラマであり自宅で仕事しているものだから時間が自由になる環境がベースにある。仕事に疲れたり、アイディアが出なくなったときは横になって休む。たいていはそのまま2,3時間眠ってしまう。起きると頭がクリアされていて再び仕事をはじめられる。
長年こんな生活をつづけているうちに複眠が習慣化してしまった。
小料理屋の人などにも複眠が多いとどこかで読んだことがある。朝早く河岸へ仕入れに行き仕込んでから店をあけるまで寝て、夜店を閉めてからまた寝るらしい。しかし自分にはそうした知人が
いないのでよくわからない。
複眠になってよいこともわるいこともある。よいことは仕事がストレスにならないこと、眠るということが時間で強要されないので眠るという苦労がないこと。わるいことは起きる時間が決められ
た生活やスケジュールがきつい旅行などできないことだ。朝起きるという観念が失われるから普通の生活ができないということになる。
入院して完全にスケジュール化された生活をおくっている(強いられている)と少しは睡眠のパターンも変化するかと思ったが、相変わらず複眠がつづいている。一日中ベットに横になっていつでも眠れる環境は自分には複眠を妨げるどころか、奨励しているようなものだ。医者からは複眠は睡眠障害だといわれそうだが、どうも改まりそうもない。
日本は中緯度にあるから昼と夜の区別ははっきりしていて長さもそれほど違いはない。しかし緯度の高い国にいくと様相はまったく異なる。
夏のアムステルダムでは夕方が3時間くらいあって午後10時になってもまだ明るかった。朝はすごく早く明ける。いわゆる夜は数時間しかない。逆に冬のアラスカでは太陽のでている昼は数時間しかなかった。以前プラネタリュームで南極の夏の様子のシュミレーションをみたことがあるが、太陽は沈まず一日360度水平線の近くを回りつづける。
旅行者として短期間の滞在なら時差ぼけもあってそんな環境でもそれほど深刻なことにはならないが、これが生活するとなると全然次元が違うのではないか。一日中明るかったり、暗かったりすれば睡眠にどのような影響があるのだろうか? 不眠症のひとはますます苦しむことになるのだろうか? 複眠者にとってはあまり影響なさそうな気もするがどうなのだろう?
いつか機会にめぐまれてそんな場所に住んで確かめることができればいいのだが。でも寒そうなのでそのほうがこわい。
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