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2000.4.2 (6日目) 花蓮は名前が美しいだけではなく街もすばらしい。昨晩到着したときは夜でしかも雨が降っていたので様子がよくわからなかったが、ホテルの部屋から見える風景は広々していて大きな街路樹がふんだんに植えられている。 駅前のバスセンターで10時10分発太魯閣に行くチケットを買った。乗合バスで安いが便数はすくなく次は1時ころになってしまう。たいていは見所できちんと停車するツアーに参加するらしいが出発が朝8時なのでとても起きられない。休みに入りひとが多い。太魯閣は台湾随一の観光地らしいのでバスはいっぱいになるかと思っていたが乗ったのは10人足らずだった。 定刻に出発。台湾の交通機関は時間が正確だ。しばらく街中を走り花蓮の中心街を見ることができる。駅前だけではなくどこにでも丁寧に街路樹がうえられていて歩道も整備されている。さすが大理石の産地らしく大理石の歩道もあり、傾斜地の斜面も大理石でデコレーションされていたりする。大きな会社を囲む塀も大理石だ。清掃もいきとどいているようでゴミもめだたない。 人口は台東のほうが多いと思っていたが間違いだった。20万人が住み街もぜんぜん大きく堂々としている。観光の街だからきれいにしていることもあるだろうがやはり産業が発達しているようだ。良い港もあり中型の貿易船が舫でいる。はずれには軍民共用の飛行場もありときどきジェト戦闘機が轟音をのこして飛び立っていった。 軍事的にも重要な拠点らしく軍の施設もあちこちにみられる。しかし沖縄のように露骨に基地があるというような感じではなく、やはり中国と対峙する自国の軍なので自然と地域に溶け込んでいるように見えた。台東のパソコンショップのおばあさんと話していたとき「沖縄は日本にトウチされているのか」と聞かれ最初は意味が分からなかった。日本人からすると「統治」は読み言葉で普通の会話にはでてこない。台湾の複雑な被支配の歴史からすればこういう表現が当たり前にでてくるのかもしれない。先月の選挙で本省人が初めて政治のトップになったがこれから台湾は軍事的にはどのような政策になるのか興味あるところだ。 花蓮から太魯閣まで40Kぐらいで入り口まで小1時間くらいかかる。途中は山がせまっているものの斜面ではなく平野になっている。北回帰線を越えているので南部の植生とはすこし違うが、台湾の西側にくらべるとその変化はさほどではなくヤシの林も随所にみられる。これまであまりみられなかったバナナもあちこちで栽培されていた。広い水田も多く、果物などの畑ではいろいろなものが栽培されて見飽きない。石屋さんの看板が新鮮だ。 最初、太魯閣はせいぜい南紀熊野の渓谷くらいだろうとたかをくくっていた。しかし想像以上にすごいところだ。海から数Kさきには見上げるような山がせりだしてきて道は急にせまくなる。一枚岩の岩盤の中腹を削って片側トンネルのようになっている。もともと反対側が川で断崖絶壁なのだから道路の手がかりになる敷地など全くなくすべて人工的に作られたことがよくわかる。岩をくり貫いただけのトンネルもたくさんある。見通しのよいところから道路をみるとアリの巣のようだ。道路の幅はやっと2車線が確保されている程度でカーブばかりですれ違うのも大変だ。 ところどころに展望台が設けられていて観光バスがとまっている。こちらは路線バスなのでそっけなく通過。なるほど乗客が少ないわけだ。休みのせいか乗用車も多く混雑している。揺れるバスから写真を撮ってみるがアングルもすぐに変わってしまいなかなかきまらない。 山肌の露出が多くなり一枚岩が頂上まで切り立っている。ちょとした手がかりに草や木が元気よく生えていて植物のたくましさを感じる。しかしところどころの岩盤はそれすら拒んでいる。数年前にチベットで見たヒマラヤの山の厳しさを思い出した。渓谷の最も狭いところにさしかかるとほとんどがトンネルになりところどころで外がみえるだけになる。四方が絶壁で空が狭い。全体の空の形が台湾のように見えるらしいが残念ながら下車できない乗合バスからは確認できなかった。 このあたりで強く感じるのはこの渓谷が侵食によってだんだんできたのではなく、巨体な岩盤に下から力が加わりヒビワレしてできた自然の圧倒的な力だ。霊的な感じすら突き抜けてただただ目を見張らせる。 台湾は九州ほどの広さしかなく涙のようなやさしい形をしているせいもあって余りたいした地形ではないと思いがちだが、富士山よりも高い山を持ち、北回帰線が通っていることもあって本当に多様な姿をしている。小数山岳民族が住み、蝶の種類も世界的だ。世界の政治に翻弄され歴史は複雑でいろいろな解説がある。しかしここの人たちは優しくとても親切だ。パソコン産業などのパワーをみるとこの太魯閣の自然のパワーが台湾の人々や自然の底流にも流れているような気がしてくる。 そういえば半年前に台湾中部で大地震があったが、その復興にあたって国民党政権のあまりにもすさまじい利権腐敗ぶりが露呈され、その結果、先の総統選挙では民進党の陳水扁が勝利したとされる。外の勢力に統治され続けた台湾に初めて自前の政権ができるわけで実質的な独立に等しい。台湾の地下に秘められたエネルギーがこの政変をもたらしたといえるかもしれない。 花蓮への帰りのバスがなかなかこない。結局2時間ほどまって花蓮にもどったのは4時過ぎになってしまった。北にむかう列車は6時までない。待つのはべつに苦痛ではないが、暗くなって途中の台湾随一といわれるすばらしい海岸線が見られないのが残念だ。今晩は台北の手前の基隆までいくのだが途中の乗換駅がよく分からないのでとりあえず台北までのキップをかった。台北から基隆へは頻繁に電車がでている距離だし、何といっても台湾では交通費が安いので先まで買ってもたいして損した気分にはならない。 基隆までは夜で全然景色がみえなかった。時々おおきな街に停まる。やはり南部よりも平地がひろがっている。八緒というところで降りて電車に乗換えた。基隆はとなりだ。ちなみに台湾東部は北部以外はジーセル車で電化されていない。9時過ぎ基隆に到着。基隆は沖縄からの船が着く港だ。できればここには船できてみたかった。
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