トラベルメイト Top pageワールドフォーラム

田森くんは西へ Index page へ

vol.112 タイ・バンコク (01)

バスは夜中じゅう走り続けました。

この頃のタイの長距離バスにはリクライ ニングシートのようなしゃれたものはありません。所々の窓は半開きになっていてちゃんとは閉まりません。考え方によっては、心地よい夜風のなかのバス旅行でした。体全体は窓から入り込むほこりをかぶって顔は黒く頭は白く、体全体は私も中村もグレーにすすけてしまいました。  

夜汽車の場合は、汽車の揺れは案外ゆりかごのように安眠を楽しむ要因になったりするのですが、このバスはそんな生やさしいものではありません。日本ならとっくの昔にお釈迦になってるようなエンジンを、回せるだけぶん回して、ところどころ舗装のはげた夜道をバスは突っ走ります。シートはさすがに板のベンチシートではありませんが、薄いビニールの申し訳程度のクロスが張ってあるだけのものです。車のクッションは荷物と人間を満載することが第一の目的のため、がちがちに堅くセッテイングしてあります。  

前方に窪みがあろうが、舗装がとぎれて砂利道になっていようがお構いなしにバスは突っ込んでいきます。眠くなってうとうとし始めるとガッシャーンと言う音とともに乗ってる全員の体と荷物が宙に一瞬の間ですが浮きます。少し落ち着いて走る期間が続きます。完全に舗装がされている道にはいると、これが同じバスかと思うくらいスムーズに走ります。タイヤとエンジン音だけが車内に響き、しばしの安眠が保証されます。  

また舗装が剥がれている道に入ります。細かい振動が車全体を揺さぶります。タイヤが小石をはねてそれが車体に当たる音が続きます。場合によっては沿線に生えている木の小枝が車体をたたきます。  

時計は12時過ぎました。もう次の日の早朝です。さっきまでがやがやとお互 い話をしていた乗客も全員が眠ってしまいます。そしてまたジャンピング、この瞬間だけ皆が目を覚ましますが数分後にはまた目をつむってしまいます。私も目をつむって眠っていたのですが、体は常につぎのジャンプに備えて身構えていました。半分寝てるのだけども、半分は前の座席のバーを握った手に神経を集中させていました。  

急にバスは方向を変えスピードをゆるめました。どこか町に到着したようです。バスは止まったようで、突然に乗客の会話が始まりました。窓の外は、物売りの声がします。私の頭はすぐには活動を始めませんでした。

「バンコックですか?」
中村が話しかけてきたようです。
「へっ!」
「バンコック着いたんですかね!」
もう一度彼が話しかけてきます。

「今何時かな。」
やっと私も言葉が出ました。

「一時過ぎです。」
「一時、一時ならまだバンコックには絶対着かないで。ここどこやろ」
前の席に座っている親父に聞いてみました。

「バンコック、イズディス、バンコック?」