vol.042 タイ・バンコク (08)
朝5時頃目が覚めました、町はもう明るくなってきてます。全然寝てないような感じがします。汗で皮膚はべとべとです。少しは寝たのかもしれません。天井では馬鹿でかいファンがくるくる回っています。
道路を走る車もほとんどいません。窓から入ってくる風もすごくさわやかになってきました。さっきまでべとついていた肌も乾いてきました。何よりうれしいのは、風に排気ガスの匂いが付いてないことです。ほんの数時間前まで窓から入ってくるなま暖かい風は、排気ガスそのものが薄まったものだったのです。やっと心地よい気分になってきました。いつの間にか眠っていました。
次に目が覚めたのは8時はとっくに過ぎてる頃です。窓からは朝日が射し込み、車の走る音とか通行人の話し声、自転車のブレーキの音、クラクションの音、一気にバンコックは目覚めたようです。
私はまだ目覚めたくありません。カーテン締めて、ファンを強にして、窓も閉めました。
今度は廊下で、旅行者同士の立ち話とか、チェックアウトする連中が荷物を引きずっていく音がします。 掃除のおばさんの甲高いタイ語、旅行者の英語、部屋を出たり入ったりする事に
ドアがばたんと音を立てます。安普請の宿ゆえ、ドアの音は向こう三軒両隣に響きます。窓を開けていたときは気にならなかったファンの風切り音が、頭の上でぶんぶんうなっています。
くそったれ、バンコックはくそったれだ!タイソングリートもくそったれだ!掃除のおばはんもくそったれだ!俺もホントはくそったれだ!
シーツを頭からかぶってエビのように丸まってもう一度寝ようと思ったのですが、今度は暑い。足の裏が熱を持ってだるい。
ベッドの上に起きあがって胡座をかき、足の裏を揉み始めました。自分で揉んでもちっとも気持ちよくありません。枕をひっつかんで壁の鏡に投げつけました。
「くそったれ!」
枕は、手元が狂ってイスに当たって窓の鉄格子の方へすっ飛んでいきました。 枕まで馬鹿にしやがる。 枕を床から拾い上げ、ベッドの上でかみつきました。
ゲッ、しょしょっぱい!
何人も何十人もの汗をすった枕です。枕カバーだけは部屋の泊まり主が変わればたぶん代えるでしょうが、枕は夜は何十人もの汗をすって、昼は湿気だけ空中に放出して、また夜は人体の分泌物を吸収する。たくさんの頭のエキスが詰まっ
ています。シャ、シャワーだ! このときほど冷たい水のシャワーがありがたかったことはありません。
目がやっと覚めてきました。下の階の食堂からは、布袋腹の親父が使う中華鍋の、ガラガラッと言う音が聞こえます。
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