vol.014　旅立ち・神戸港 (1)

「おい、田森起きー、もう出んとあかん、おい田森」 　

誰かが部屋のドアをがんがん叩いています。何だよ人がせっかく気持ちよく寝てんのに。時計を見ました、８時４５分になってました。
げ、今日は出発の日だ。 目ざましを７時にかけておいたのに寝過ごしたようです。

「おう、田島か」
「そうや、何やっとんねん、早く起きー、間にあわへんやんか。」 　

やっべー。でもね間にあわへんといっても神戸港出発は１９時です。何が悲しくて９時に起きなきゃいけないのかわからんわけですが、田島、中島組が寝袋とか諸々を梅田で買い物してから出発することになってましたので下宿発が９時になってしまったのです。１０時間もどうすんだよとは思ったのですが、私の都合で大阪乗船を神戸乗船にしたのであまり文句も言えません。 　

この頃はまだ沖縄は日本返還前でしたから、沖縄に渡航するにはパスポートか渡航証明書が必要でしたので外国へ行くのと同じ手間が出発の時にかかりました。 だから１９時発と言っても今のように出航一時間前に行けばいいわけではなく、沖縄渡航手続きがチェックインの後にありますから２時間か３時間前には集合しなければなりませんでした。 　

田島は法学部で何事も前々に手続きを終わらないと気にくわない人でした。彼の計算によると、 　

神戸発１９時 　
渡航手続きチェックイン１６時 （今までやったことのない手続きなので最大限の余裕を持たせるので３時間前） 　
梅田発１４時半（１時間あれば十分だけど余裕もって１時間半） 　
梅田で食事１３時半（眠眠で餃子中心のパワーランチ、あそこは混んでるので１時間の昼食時間） 　
梅田のスポーツ用品店１１時半（２件ほど回る予定なのでたっぷり時間をとって２時間、出発当日に寝袋の買い物もないもんですが。） 　
下宿近くの駅発１０時半（下宿出て朝飯食って駅に行くまで１時間）
下宿発９時半 　
起床９時 　

こう計画たてられると何も文句いえません。

「それに、自分らルーズやから３０分か１時間はすぐ遅れるやろ、ほらもう今このまま下宿出ても９時半過ぎるで」

おっしゃるとーりです。出発９時５０分過ぎになりました。 　

私が、大阪港発でなく神戸港発にした理由ですか？そんなもん簡単な理由です。 当時恋愛のおままごとしていた女の子が神戸に住んでいたからです。出航の時見送りに来てもらって紙のテープを船から投げたいじゃないですか。大阪港はやだけど、神戸港なら見送りに行ってもいいよと言ってくれたので、私には選択の余地ありませんでした。