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【 片山くんが行く(62) 】
2,30分掃除を続けました。もうほとんどこの部屋の掃除は終わりました。ノズルの水を止めてホースを巻いて道具を片づけ始めました。
「ヘイ、ヘイ!」
声のする方を振り向くと、事務職のオッサンとまたあのバーさんのコックです。畜生、言いつけやがったな、今度はオッサンの説教かよ。もう今日はうんざりです。そりゃ少しは言い過ぎたかも知れないよ、でも日本語だからバーさんにはわからん訳だからいいじゃないかよ。そう思ってました。
「ユー、セイ、シャタップ、ドンチュユー?」付加疑問形という奴でしょうか。意味はよく解ります。
「アイ、ドント、ノウ」私はとぼけました。
オッサン「ユーアー、トウモロウ、フリー」
「ヘッ、ホワット」
オッサン「ザデイアフター、オールソー、フリー」
「ホワット」
オッサン「ノー、ジョッブ」
一言「ユー、アー、ファイアード」と言えば良かったのでしょうが、このオッサンなりに気を利かせたのでしょう。たぶんそう言っても通じないので、簡単な単語に言い換えてくれたのでしょう。 で実際、そう言われたとしたらその当時の私の英語力ではわからなかったでしょう。
オッサンがクビの宣言をするのを見届けるとバーさんくるっときびすを返して自分の持ち場の調理場に帰っていきました。
なんだよー。たった「シャタップ」と言っただけじゃねーかよ。文句言おうと思って頭の中をフル回転させ始めました。それを彼は手で制して言いました。
「カム、トウ、マイオフィス。アイル、ペイ、ユー」
よく考えてみたら、あのバーさんコック、オープンサンドの第一人者でありました。このコペンではかなりの有名人でした。日本で言えば、NHKの今日の料理に出てきてたあのオバーさんくらい有名な人でした。
その人に、アルバイトの東洋人旅行者がかみついたのですからまあ無事にはすまんでしょう。クビを宣言に来た事務職のオッサンより威張ってたし実際格は上のようでした。
事態はもうどうもならないようです。文句言うのやめました。オッサン肩すくめながら自分の持ち場へ帰っていきました。私はと言えば、頭をぼりぼりかきながら前にちょうどいたイタリア人の出稼ぎ青年に笑いかけました。彼は手のひらを前に出して肩すくめて苦笑いしました。まあしょうがないねがんばんなよとたぶん言っていたのでしょう。
その日の仕事が終わるまで1時間強ありました。職場はやはり白けています。隣の洗い場にいた日本人アルバイトには声をかけました。
私「あのコックのバーさんと喧嘩しちゃったよ。今日でクビだってさ。しょうがねーよなー。」
「こらからどうすんだよ、どんどん寒くなっていくぜ」
そう言えばそうです、ここに日本から到着したときは夏でしたから野宿もできましたがこれからは冬です野宿もできません。今はまだイブ君ちの居候ですからいいとしても、そんなこと考えもしませんでした。
「うん、まあな」
いつもは楽天的な私も、腕組みして考えてしまいました。
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