トラベルメイト Top page へ戻る

トラベルメイト片山くんが行く

<<前のページ  次のページ>>

  1. 【 片山くんが行く(23) 】

     河本と一緒にささやかな祝宴を揚げました。ビールを買おうかどうか迷ったのですがビールの濃さでもランクがいろいろあって自分の好みのビールが買えてしまう国です。こんな日に牛乳だけというのも残酷な話です。

     清水の舞台がデンマークにあるかどうか知りませんが、清水の舞台から飛び降りる覚悟でビールを買いました。食事はさすがにレストランでは食べなかったですが、おかず付きのパンです。パンの中になにが挟んであったのか今となっては覚えていませんが、とにかくソーセージかハムかチーズか卵かそれの何種類も入っていたものか、タンパク質入りの食物でした。

     おなかの中に鉛のようなものがあって食欲をセーブしてたのですが、今日オスターポートホテルでそれがスコーンとなくなってしまいました。よく海外で食事が合わなくて苦労する話を聞きますが、私たちは食事が合わないのではなく、食物(タベモノ)が買えないので苦労しました。たった2〜3週間でしたけども。

     こんな時は食事とか料理の範疇にはおなかの状態がなってません。もっと単純に、食物とか食品の状態でおなかは十分満足します。 「空きっ腹にまずいものなし」本当にそうでした。食べ物が胃の中に入って、体全体にジワーと回っていく感覚もこの時期に体験しました。砂糖類のあの甘さが血管入り、しなびたからだ全体に空気が入っていく感じ、タンパク質の食い物のあのうまみ、食べた次の日の目覚めの快適さ、やっぱ今日はちょっと豪華に食べたいです。屋根が着いてテーブルがある分のお金は払えませんから、本日のねぐらの公園でアウトドア風祝宴です。

     ねぐらは、ホテルに近い公園に変更です。ここなら「ホテル歩5分、南50M道路面、上下水道なし、美庭、たまにボランティア訪問あり、治安よし。」

     これから後のヨーロッパ、アジア旅行の中でもこの日が一番僕らは幸せでした。このまま寝てしまえば明日はなんにも考えることなく仕事が始まる、久しぶりに心配事のない夜でした。



     今日は初出勤です。入念にGパンとか頭に付いている草をはたきました。普通なら2,3回ぱんぱんとやって終わりなのですが今日は、二人で交互にチェックしながら5,6回はやりました。リュックも寝袋もはたきました。

     第一印象というのはやはり大事じゃないですか。しかも最近は自慢じゃないけどずーとアウトドア生活の身です。インドア生活ならたぶんそこまではやらなかったと思います。

     例えば、雑誌を廃品回収に出すのにベランダに2週間ほど置いておくと、赤みがかった部分はすぐ退色していかにも古本と言う感じになりますでしょう、私たちも一緒でした、雨には当たりませんでしたが、風と埃と太陽はもろにかぶります。皮膚の色など埃と日焼けで、印刷物とは逆に赤みがかった黒に変色してきます。いくら日光が弱い北欧でも戸外は戸外です。お互いホテルに行く前にもう一度点検です。リュックを担いでお互いの前で一回転です。うん、おおむね大丈夫、昨日のタンパク質が、顔のやつれを少なくしてくれたようです。

     お金の持ち合わせは、昨日の散財で二人あわせて20$を切っていました。泣いても笑ってもこれだけです。カメラはまだありましたが、探せば日本円も1000円くらいはどっかに入れてあったような気がします。



     食い物のいいのがおなかにはいると、頭の回転が速くなります。明日のことだけではなく少し先のことも頭が働くようになります。そう言えば今日明日はいいけども、後10日ほどしたらまた職はなくなるわけです。その次の職がなければまた同じ事の繰り返しです。

     と言うことは、最悪の場合休暇を切り上げて日本人が帰ってたりしたら今日からの仕事もないかもしれません。朝の寝起きの時は、調子がよくありません。寝る前調子がよかった分振り子の先はレッドゾーンに同じだけ触れるようです。

    河本「まさか、今日ホテルに行ったら、日本人二人帰ってきてたりして、はっはっは!」

    笑えない冗談です。実は私も同じ事を考えていました。それに、昨日散財しなければお金はまだ30$ちょっとはあったのに。

     それからホテルまでは二人とも無言でした。朝のコペンハーゲンにリュックの金具がきしむ音だけが聞こえます。もうすぐホテルの裏口です。ゴミ出しをしている黒人の姿が見えます。日本人はいません様に。祈るような思いで歩きました。またあの鉛のようなつっかえが肩から足の先まで姿を現したようです。

    私「おう、あれ日本人じゃないか!」

    河本「そうかな、ここからじゃあ、あまりはっきり見えないけど、昨日の人じゃないのか?」

    裏口へ行くまで、厨房の窓の下を通ります。よくは見えませんが、東洋人らしいのが鍋を洗っています。

    私「一人かな、二人いないよな」

     急に、さっきから重くなった胃の辺りからげっぷがでてきました。空気だけでなく、酸っぱい液体も一緒にあがってきます。あわてて飲み込みました。のどの辺りがひりひりします。昨日、あんなにのみ食いしなければ30$はあったのに。

<<前のページ  次のページ>>

↑ページ最上部