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【 片山くんが行く(20) 】
次の日も、その次の日も、コペン大学の芝生と職探しの往復でした。河本とはあまり良い関係ではもうありません。レストランの裏口で交渉する態度がいちいち気にさわります。語学の才能は元々彼の方があります。知っている単語の数も段違いです。でもねー、日本では色々な交渉術は私の方が段違いです。河本の語学力と、私のソフトな交渉力があれば多分もうなんとかはなっていたでしょうが、世の中うまくはいないもんです。
私がそう思ってると言うことはかれもそう思っていたでしょう。よけい意固地になってきます。私に語学力見せつけてもしょうがありません。私も彼の欠点をあげつらっても何の得にはなりません。しゃべれるけど、若いが故の彼の生意気さが全面にでてきます。
「何でおれら、使わねーんだよ、こんなにまじめに何件も回っているのによう」そうは口では出しませんが、だんだん食いつきそうな顔になっていきます。使う方は、そんな事情全く関係ありません。
また二日たってしまいました。もう駄目かもしれません。気力と体力は残ってますがお金がありません。日本に電話できるお金があるうちにこの旅行切り上げてしまった方がいいのかもしれません。
熟睡してしまったようです、ふっと目が覚めると、窓の外は雲が浮かんでいます。ほんの一ヶ月前日本から飛んだ同じルートを逆に飛んでいました。河本も隣で死んだように寝ています。コペンハーゲンの日々が次から次へと浮かんできます。特にこの数日は、きちがいじみた日々でした。嵐のような展開の日々でなにがどうなったか覚えてはいません。とにかく日本の留守宅と連絡が付き、帰ることになりました。大使館と、日本の留守宅と、銀行と、スカンジナビア航空と、到着したときにホテルとってくれた赤鬼スウェーデン人と、何がなんだかわからないうち飛行機の切符がでてきて、出発当日になって、おとぎの国を後にして空港へ向かって、飛行機に乗って、そして今は雲の上です。
私たちの夏祭りは終わりに近づいています。窓の外を見ていると到着の時の思い出が次から次とわき出てきます。もう私たちに二度目のチャンスはないはずです。他の連中は、お金が底をつく前に幸運にも職にありつきました。旅行記にはそう書いてあります。私たちは、日本への電話代が無くなりそうなときに、引き返すことに決めました。運がなかったのでしょうか。河本とももう喧嘩する気力もありません。こうなったら相手を非難しても状況が変わるわけではありません。
不覚にも、後から後から涙が溢れてきます。もっと俺は強かったはずなのに「昭和の高杉晋作」にはなれないようです。河本は、枕に顔を押しつけて寝込んでいます。心なしか彼の肩も小刻みに揺れてるように見えました。もう一時間ほどであの背高のっぽの便器のあるモスクワです。今までの疲れがどっとでてきたようです。いつしかまた寝込んでしまいました。
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