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トラベルメイト片山くんが行く

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  1. 【 片山くんが行く(19) 】

     最後にYHに泊まったのは一週間前くらいです。もう二人あわせてもお金が70$を切って限りなく60$に近くなっています。また全身が薄汚れてきました。身なりがこざっぱりしてないと、レストランの裏口に経ったときの第一印象が違います。屋根付きのベッドに泊まるだけで一気に二人の所持金は50$かすかすに減ります。

     出発前の送別会、飲み会のお金を使わないで$に交換していたら、ゆうに100$ずつくらいはもってこれたのです。今更後悔しても遅いのですが、それだけでYHに一ヶ月弱は泊まれる勘定になります。そのころ出版されていた旅行記は、コペンハーゲンとかストックホルムでは、10日ほどで割合簡単に仕事が見つかると書いてありました。私らの場合もう二週間になろうとしていますが、まだ見つかりません。売り込みの方法が悪いのか、仕事を探す時期が悪かったのか、お金使い果たして家に泣きつくか、大使館に駆け込んで「強制送還」になるか、いずれにせよいい展望は有りませんでした。(実際の所、犯罪でも犯さない限り強制送還などあり得ませんが、当時は何でもかんでもお金なくて大使館に駆け込むと強制送還されるものと思ってました。)

     YHでこざっぱりとして、朝から職探しです。実のところ昨日までは、毎日の様に職探しすることはしてましたが、途中疲れてくると観光スポットに行ってみたり、お互い自由行動をしてみたりで、まじめには職探しをやっていたつもりですが、遊びの部分が三割は入っていました。いよいよ尻に火がつき始めました。私たちその日からかちかち山の狸でした。

     「アーバイト」 「ソーリー」

     「ワーク」 「ソーリー」

     また今日も駄目でした。今日からはいよいよ野宿専門になるしか有りません。おとぎの国に到着したては、お互い夢を語り合うことが多かったのですが、今は独り言と愚痴が多くなってきてました。そしてきっかけは些細なことでした。今考えても原因は思い出せませんからたぶん些細なことだったと思います。

    河本が先に言ったのか私なのかも覚えていませんが、もうちょっとちゃんと調べてから来れば、こんなことにはならなかったと言うようなことをどちらかがぼそっと言ったのがきっかけでした。

     河本「片山よ、旅行記かいたひとに手紙出してアルバイトのことも聞いたんだよな」

     私「どこの旅行社に申し込んだらいいかとかは聞いたけども、ここに来てからのことは聞いてないよ。」

     河本「なんだよ、旅行記書いた人にちゃんと聞いて返事も来たから大丈夫そうなこと言ってたじゃん。」

     私「そっちこそ、アメリカへ渡った奴からコペンのこととか、アルバイトのこととか聞いたんじゃないのか。」

     河本「あいつは、アルバイトはアメリカでしたんであって、ヨーロッパは旅行で回っただけだから詳しいはずないじゃん。コペンのこと調べてたのはそっちだろ!」

     公園の芝生の上で、寝袋にくるまって延々同じ話の繰り返しです。「誰が悪い訳じゃない」のはよく解ってました。準備不足の私たちが悪いわけですけども、現実の海外旅行をイメージする様な想像力は私たちにはまだありませんでした。この年71年でまだ海外渡航者数は100万人を越えてはいませんでした。内、観光63万人、そのうちの個人旅行者はたぶん10万人もいなかったと思います。

     堂々巡りの会話は、結論はでませんでした。かなり気まずい雰囲気になったことだけは確かです。私たちの、大放浪計画も初っぱなの到着都市でもう終わりになりそうでした。

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