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トラベルメイト片山くんが行く

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  1. 【 片山くんが行く(7) 】

     コペンハーゲンへ行くスカンジナビア航空は快適でした。座席は半分くらいしか埋まっていませんでした。回りの日本人は全部がネクタイをしたビジネスマンらしい人達でした。その中に、一人二人中年のいいとこの奥様風の女の人が混じり、約二名TシャツにGパンの日本人青年、居心地はあまりいいもんではありませんでした。

     外人乗客もたくさんいました。この人達もスーツにネクタイ姿、こんなに間近に外人がいる所は初めてです。スチュワデスも金髪の外人さんでした。金髪の外人など町で見かけることはあっても話などしたこともありません。

     せいぜい僕らの金髪体験というと、ストリップ劇場の金髪ヌードくらいでした。金髪ヌードというと顔は怪しい東洋人、上だけ金髪、下の方は脱色した....。ま、こんな事はどうでもいいことであって、本物の透き通るような白い肌で金髪の女の人を前にすると緊張してしまいました。ソフトドリンクを頼むにも金髪、酒を頼むのにも金髪、食事の好みを伝えるにも金髪がでてきます。授業で習う英語ではない、伝達の言葉としてのをしゃべるのも初めての体験です。

     本当なら、今頃は横浜を出港一路ナホトカへ向けて船旅をしてるところです。回りは日本人の旅行者は多いはずですし必要な言葉もロシア語のはずでした。簡単なロシア語の会話はちょっとですが勉強しました。たぶん今日は銚子沖辺りを北上しながら、船のデッキでこれから無銭旅行しようとする連中に色々現地のことを聞いてるところです。前もって詳しく調べてくる奴もいるはずですから。私ら彼らを当てにしていました。それにヘルシンキまでひとっ飛びではなく10日前後かけて行くわけですから旅行になれるにはちょうどいいわけです。

     それが今はモスクワへ向けて飛行機が飛んでいます。無銭旅行者もロシア語も船のデッキも有りません。突然英語をしゃべらなくてはならないなんて、心の準備が出来ていません。しかも本物の北欧の金髪のスチュウワデス相手にです。コーヒー一つ頼むのにもえらく手間がかかります。食事の内容が、ビーフなのかポークなのかチキンなのかフィッシなのか選べと言われても、今まで機内食など体験したこともないし、本とか雑誌でも飛行機の中のことなど読んだこともありません。なにをするにも、もたもた、そして回りを見して近くに座ってる人がやってることをまねするしか有りません。

     同じ列に座っている人は少し気味が悪かったと思います。食事をすればその箸の上げ下げ、ではなくてフォークとスプーンの上げ下げをじっと見てるし、ソフトドリンクを頼むと同じものを頼むし。

     同じ視線を、私は10数年後にバンコック東京間のパキスタン航空の機内で体験します。バンコックからカンボジア難民のグループが乗ってきました。その中で38番の番号札をつけたおじいさんが私の席と通路を挟んで隣に座りました。飛行機に乗るのは初めてらしく緊張していました。布製の小さなバックを膝の上でしっかり握りしめ微動だにしません。食事が始まりました。機内食のトレーが配られます。おじいさんの所に順番が回ってきましたが、テーブルをセットすることなど当然解りません。

     スチュウワデスさん今手にしてる荷物を下に下ろすか、頭上の荷物入れに入れるよう話しかけてますが全然通じません。よけいおじいさん膝の上の荷物を堅く握りしめ石になってます。荷物を取り上げられるとでも思ったのでしょう。とうとうスチュウワデス半分切れました。

     テーブルのフックをはずすとそのままおじいさんの膝の上にテーブルをバンとセットしました。おじいさんの膝・小さな手荷物・おじいさんの手・テーブルこの順番でセット完了です。当然食事のトレーはテーブルの上です。ここまで来てやっとおじいさん、荷物を取り上げられるのではなくて、テーブルをセットして食事をおくために、スチュウワデスさんが話しかけていたことを理解したようです。ちょっとばつ悪そうに、にっと笑っておじいさん、テーブルの下からそっと手を抜きました。

     その後私がドレッシングのふたを取るとドレッシングのふたを取り、パンをちぎるとパンをちぎりました。胡椒の袋を破ってビーフにかけたときは、かれ少しあわてました。胡椒の袋は砂糖とか塩と一緒にひとまとめのなってるじゃないですか、すぐには解りません。こっちに身を乗り出すようにして胡椒の袋を確認し、同じものを自分のトレーから探し出しました。私がやったように2,3回袋を振ってから上の方を開けます。同じように振るなよ頼むから、ホントにね!疲れました。彼らマニラで皆降りていきましたが。

     スカンジナビア航空の中では、私たちが38番のおじいさんでした。食後には酒が販売されました。酒はこの頃は無料ではありません。しっかりお金を取られました。緊張してる身には、ビールは最高でした。ウイスキーもうまかったです。トリスかレッド位しか飲めなかった僕たちに、ジョニーウオーカーの赤であってもスゲー高級酒です。やっと緊張が少しほぐれてきました。懐は寂しくはなりましたが。

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