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【 リロとハズキのチャリトリップ(6) 】
ゴア州を地図でみると、パナジ市の北をマンドヴィ川が、南をズヴァリ川がアラビア海にそそぎ、河口は広い入り江を作っている。外国人ツーリストで賑わうビーチは、市の南北二〇キロと広い範囲にわたってにわたって点在していた。
エアポートはこのズヴァリ川の南に突き出た半島の小高い丘にある。車はこの丘を東に下り、大きな橋をわたって約二〇キロ離れたマンドヴィ川に面した市内へと向かった。
車内からみる街の様子は、私の一〇年前の北インドの記憶とは、まったく異なるものだ。都市の周辺は、たいていゴミ捨て場があり、悪臭とばい煙の洗礼をうけたあと、路上生活者の暮らしを瞼に焼き付けるところから旅がはじまった。
ところが、ここはそんなインド旅行のイメージとはまったく異なる別世界だ。丘には瀟洒な洋館が青々とした緑に包まれている。街は美しく保たれ、店の作りも西洋風だ。それもそのはず、ゴアは一六世紀以来、東方との交易を求めるポルトガルの植民地だった。
奥まった入り江は天然の良港を生み、彼らにとって、物資を積み出すには格好の地だったといえる。インドがこの地をポルトガルから取り戻したのは一九六一年というから、つい最近のことだ。ここでは、西欧と変わらぬ生活スタイルで数カ月滞在しても、出費は他の国と比較にならないくらい少ない。政府直轄地から州に昇格したゴアは、世界を旅するツーリストにとっても魅力的な存在となった。
私は、すっかりリラックスして景色を楽しんだ。と、その時、ガサッと音がして、車が左右に揺れた。「うわっ、あぶない、スピードを落とせ!」
屋根に積んだ自転車が、ずり落ちて窓の外側にかぶさってきたのだ。私が用心の為つけたストラップ一本でかろうじて落ちないですんでいる。窓側に輪行袋をぶら下げたアンバサダーは、安定をうしなって蛇行している。ようやく車は路肩にとまり、私たちは反対側のドアから出た。
「ふぅーびっくりした」葉月がため息をついた。「まったく、間一髪のところでオシャカになるところだったよ」
私は荷物から長いストラップを取りだし、輪行袋をキャリアに付け直した。最初からすべて自分でやれば問題なかったものを、ドライバーにまかせたのがまちがいだった。それにしても、ドライバーは事の重大さを今一つわかっていないようなそぶりだ。道路状況や積荷の重さに関係なく、カーブをかっとばすのは、北も南をかわらないようだ。油断は禁物、インドに着いた実感がやっとわいてきた。
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