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「トラベルメイト98」
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【 旅行業で喰うひとびと(10) 】
<「靴下」で歩く不審な男>
パットさんのお母さんとか親戚はフロリダに住んでいます。ある日、パットさん、いとこを訪ねていく途中のことでした。初めてではなかったのですが、何年か前に来ただけなのであまり記憶がはっきりしません。近所でいとこの家を聞くと、もうちょっと先で、歩いたら少し時間がかかるということでした。一〇分も歩いたでしょうか、何年か前来たことのある懐かしい家並みが現れました。いとこの家らしいところまで来ると家族全員が庭のところで待ってます。いちおう今日遊びに行くよと伝えてあったのですが、時間を正確に伝えてあったわけでもないし、全員が庭に出て彼が来るのを待っているのもおかしな話で、パットさん、どうしたのと聞くと、みんながいっせいに笑いだしたそうです。
いとこ「パット、近所の友達から、靴を履いてない男があなたのところへの道順
を聞いてきたけども大丈夫かと電話があったんだ。ちょっと変わり者の
いとこが今日来ることになってるけどもと言うと、でも靴下だけで歩い
てる男だけどもほんとに大丈夫かと聞いてきたので、たぶんと答えてお
いたよ。でもいったいその格好は何だい」
パットさんの本職は船大工さんです。ヨットの内装をしたり修理をしたり、チームを組めば新しいヨットだって造れます。その彼が日本に来て何が気に入ったかというと、日本の大工の定番、地下足袋です。地下足袋は靴と違って足の裏の感覚がそのまま足に伝わります。船のデッキの上での修理だって、普通の家の屋根の上でも滑りにくいし、非常に使いやすいのです。彼に限らず、日本でログハウスを建てにきた大工さんなどが必ず買って帰るものは地下足袋です。フロリダでも、履きやすいのでパットさんは地下足袋を愛用していたのです。
パット「その格好って、何?」
いとこ「その格好だよ、何で靴を履かないの?」
パット「これは靴の一種で、日本では大工が愛用してるものなんだ。屋根に上が
っても滑らないし、はだしで歩いてるくらい地面の感覚が足の裏に伝わ
って非常に使いやすいんで、日本に行った連中、おみやげに買って帰る
ことが多いんだよ」
いとこ「でもどう見たって靴を履いてるようには見えないよ」
その日一日、地下足袋の話でいとこの家は盛り上がったそうです。
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