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「トラベルメイト98」
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【 旅行業で喰うひとびと(9) 】
某年某日、ポルトガルにて
マドカ「パット、あんたお金あるの。これからアフリカ旅行してインドへ行くん
でしょ」
パット「あと、三〇ドルくらいあるよ」
マドカ「三〇ドルでどうすんのよ。スペインにも行けやしないよ」
パット「マドカ、お金、持ってたら貸してよ」
……というふうな会話が何回か繰り返され、パットとマドカはそれからも一緒に旅行するようになりました、と思います、たぶん。(私実際見てないから解りません)
そうこうするうちに結婚、ウミちゃんが生まれました。まあどこに住んでも暮らせる人たちでしたが、二年ほど仮の宿ということで日本に住むことになりました。パットさんは英会話を教え、マドカさんは旅行のときよく使った旅行会社でアルバイトをすることになりました。「形と意味」の人、中田氏などとは違って、最初の一カ月を過ぎた頃からは、航空券の細かいことなどを除いてはお客さんの疑問に的確なアドバイスが可能でした。ほとんどのところを回っていますので、世界各国の事情に通じ、エピソードも豊富です。たとえば、パットさんと出会う前、アフリカの某国で白昼堂々と強盗に襲われた話とか、アメリカのフロリダに現れた靴を履いていないソックスだけの男の話とか……。何百もの、いろいろなエピソードをもっている人には、日本からお客さんを連れて何十回添乗した人でも三〇人かかってもかないません。
彼女が話す旅行のエピソードは、乏しい体験から必死で考えたものでなく、あまりにも多すぎるので頭の中に入りきらず、外にあふれ出てくる感じでした。古くからいるスタッフも、仕事がちょっと暇になったときなどに聞く彼女の話をほんとに楽しみにしていました。
田中「アフリカのA国は、安全かい?」
マドカ「三年前は首都でも少し危なかったよ。私なんかね、白昼堂々、強盗にあ
ったんだから」
田中「へー、かっぱらいにでも……」
マドカ「いや、最初はかっぱらいだったんだけども、荷物手から放さなかったら、
ぼこぼこに殴られちゃって、ははは」
田中「ははは、じゃないって、まわりには人がいなかったの」
マドカ「いたよ、たくさん。襲われたのは大通りの道の真ん中だもん。荷物抱え
て大きな声でヘルプ、ヘルプって叫んだけど、誰も遠巻きに見てるだけ
で、何もしてくれなかったもんね」
田中「荷物はどうしたの? 荷物は?」
マドカ「そのままひったくられて終わりよ。ま、金目のもの入れてなかったのね、
金銭的なダメージはあまりなかったけど。ちょっと顔がはれちゃってね。
一週間ほどかっこ悪かったね。まあみんながみな強盗にあうわけじゃな
いんで、一〇〇%危ないわけじゃないけど、少しは気をつけたほうがい
いかもしれないね」
こういうところって、一〇〇%強盗にあうわけじゃないんで、少ししか危なくないのじゃなく、こういうところこそかなり危ないといったほうが普通の考え方だとは思いますが、彼女の話を聞いているとどんなことが起こってもなんとかなっちゃいそうで、勘が狂ってしまいます。
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