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トラベルメイトトラベルメイト98

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「トラベルメイト98」
  1. 【 最近の旅行者(2) 】

     旅行記でもレポートでも小説でも、あまり現実に即した物を伝えると夢も希望も無い味気ない物が出来上がると言われています。ですから、無理にねじ曲げた物でないなら少しは盛り上がりを作っても悪くはないと思われています。

     まずライターは旅行に出かける前に自分なりのイメージを頭の中に作ります。そのためにはただぼーっと考えるだけではありません。もちろん時間をかけて今まで書かれた小説とかルポ、雑誌の記事などを調べ旅行先ではどんな取材をしようか、下準備は最低限やるわけです。

     そして取材に出かけます。現地では、自分のイメージにあった写真とか、人間を捜します。積極的に探せば、バンコック辺りでは古典的な長期旅行者はすぐ見つかります。数は少ないですけどもね。彼らは、一見気むずかしくて取っつきにくそうに見えますが、基本的には自分の旅行の意味を他の人に知ってもらいたがっています。

     取材者がよほど自分と馬が合わなければ、話に応じないこともありますが、時間かけてあなたの今までの旅行人生を話してもらいたいと説得すれば、ほとんどの人が嫌とは言いません。他人が自分の人生を真剣に聞いてくれるほどの快感はほかにはありません。

     こうして取材された話が、レポートとかドキュメンタリーになって行くわけですが、海水からウラン鉱石を抽出するときの作業に似て時間と回数とかけて、(と言うことは費用もかけて)何回も繰り返し抽出を繰り返すとだんだんに詰まって「書き物」、あなたにとっては「読み物」の商品に近づいていきます。

     書き手の才能にもよりますが、原則はどの商品にも通用する法則通りになります。何回も反芻され抽出、比較、組み替えが行われた物ほどそれなりの迫力とエンターテインメント性を持ちます。

     書斎の中で読むだけなら、抽出され濃縮ジュース化した旅行者あるいは旅行論は悪くはありません。主人公がどんな旅行を体験しても、破滅的な旅行者であっても、一杯のコーヒーを飲んで一息入れ、ホッとため息でも吐いて本を置けばあなたは、日常の安全な自宅に戻れます。

     少なくはないお金と時間とを持って、しかしそれも不十分なまま旅行に出かけたときには、抽出濃縮された、「旅行関連のガイドっぽいドキュメンタリー」の語る物に行動の基準を置くと、大変なことになります。まず、本で語られたような「旅行者」がいない、いたと思っても実際に話してみるとなんだか違う、真面目な人であればあるだけ、初心者であればあるだけ、原因は自分にあると思いこんでしまいます。

     自分がまだ旅慣れしてないから理解できないんだ、もっと明日は現地の人に話しかけてみよう、早く現地の人と友人にならなくては、今日とレストランであった長期旅行者の人のように現地の人の家で居候したり、ご飯食わせてもらったりの体験がないから旅行が楽しくないんだ。

     それと日本出てからもう3日になるけど、外人旅行者とも話したことないし、日本人だけでしかも同じ旅行会社の「エア、アンド、ホテル」に申し込んだ連中としか話してない、明日は是非とも英語使って旅慣れた外人旅行者と話しなければ。

    最初から、本にあるような旅行者なんていませんって!!!!。

     写真があってこの人がそうと書いてあっても、そんな旅行者何処にもいませんよ。小林紀晴なり蔵前仁一がそうだと書いたとしても、一人の人間を見開き2ページとか、写真3枚とか、イラストで表すことなど不可能です。

     しかも、しかもですよ旅行先でほんの数時間か、数時間ずつ3回相手の言い分を聞いただけで、お互いアドレナリンびんびんの旅行中ですし、一つの強力な個性を持つ人間だ等と紹介はして欲しくないものです。

     旅行中は取材者の頭も飛んでるし、旅行者の頭はもっと跳んでます。



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