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トラベルメイトトラベルメイト98

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「トラベルメイト98」
  1. 【 日本の海外旅行の歴史5 】

     ほとんどのライター、作家、記者などの書く論調は、以前は「何の工夫もない団体海外旅行」とか「日本人は海外旅行まで群れなければならない人種でそのもっとも最たるものが団体旅行である」とか「ぞろぞろと添乗員の持つ旗の元に一団となって歩く団体旅行は外国では奇妙な目で見られて」とか、団体旅行に関しては否定的なものがほとんどでした。

     それにひきかえ、個人旅行へのものは「現地で生の生活にふれあえるし、文化を体験でき、本当の自分を取り戻せる」とか「誰でも簡単にでき、その上安くおもしろい」などいいことずくめです。
     たまに非難する意見もあるにはありますがとおりいっぺんとうのもので「地球の歩き方なる若者に人気のガイドブックを持って、不十分な予算と、甘い考えで外国で立ち往生する旅行者が増えている」、

     絶対数が増えれば事故も多くなりますって。だから個人旅行がだめって言うのなら、倒産破産があるので銀行は融資をしてはいけないと言うのと同じです。

     このあたり私たち旅行業界人に言わせりゃ「50歩100歩」「目くそ鼻くそを笑う」に近いものがあります。元々日本の海外旅行のはじめは団体パッケージ旅行ですし、それがあったため航空便も増え海外旅行が一般的になってきたのです。

     そこにさらに追い打ちをかけることになったのは、経済発展によるビジネス客の増加と、オーガナイザーものと呼ばれる一般消費者以外の特定の団体に販売される旅行商品の開発でした。(オーガナイザーものは大きな団体だと年間3000人とか5000人の招待旅行なんてのもあります)

     航空便が増え、団体客、ビジネス客も増えてくると当然すべての座席が効率よくさばけるわけではありません。季節によっては海外旅行者が激減するときもあります。空席をそのままにしておけば、もうかりません。要するに余り物の席が大量に出始めたのです。最初はキャンセルシートという名前で料金を下げてブローカーに流してみます。60年代後半から日本にも割引航空券を扱っているブローカーは何人かいました。

     余った席が少数で希にしか発生しなければ、ブローカーの持っている海外旅行のマニアか、外人マーケットに流せばそれなりにさばけます。だんだん余る量が多くなってくると、ちゃんと定期的に割り引き航空券(現在格安航空券と呼ばれています)を売れるシステムとルールとマーケットが必要になります。ブローカーのシステムでは対応しきれなくなってきます。

     一方団体旅行で大量の海外旅行体験者が増えるにつれ、社会全体の海外への慣れのレベルが上がってきます。こうして個人旅行者が生息できる地盤ができあがってきたのです。

     現在の個人旅行者は、団体旅行とかビジネス旅行の発展が生みだした鬼っ子のようなものです。これらを対立した両極端のものととらえると海外旅行全体が訳の分からないものになってしまいます。

     それでは団体旅行が始まる前の時代の旅行者「小田実」は何なんでしょう。彼ら50年代後半から60年代はじめの旅行者は、大量消費時代の子供ではありません。古くからあった「選ばれた人の余興」としての旅行だったのです。ですから出発前に机の上で読む本としては、彼の本はおもしろいし、中の内容もいちいち感動できる考えだし悪くはありませんが、実際旅行中に同じような体験ができるかと言うこととなると、これは絶対無理です。

     大量送客の余り物の航空券を使ってやっと海外に出かけられた層と、そんなもの利用するまでもなく選ばれて自分の払いでなく海外にでられた人と、夢は一緒でも、立ってる基盤が違います。同床異夢ならぬ異床同夢です。

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