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「トラベルメイト95」
- 【松本君が六十日以内に日本へ帰っていたら。】
旅行に出てから五十日目くらいに彼は日本へ帰るか、もっと旅行を続けるかの決断を迫られました。お金の続く限り旅行をすることに彼は決めましたが、航空券の有効期間内で日本へ帰る選択もできました。まあ。最もこちらの方が当初の計画だったにですが、もしそうしていたら病気にもならなかったろうし、ネパールには行ってなかったでしょう。そしてポカラで、初心者の旅行者をからかうこともなかったと思います。話はオオタカムンドでの決断から始めます。
思いもかけず旅行に手間取ってしまいやっと予定の三分の二ほど終わりました。後十日ほどでバンコックから東京の航空券の有効期間が切れてしまいます。滞在費はまだありますが日本に帰らないといけません。予定では後ボンベイをとおってデリーに入りカトマンズからカルカッタ経由バンコックという日程でした。もう十日ほどあれば急ぎ足で旅行すれば何とかという雰囲気ですが、季節は最悪、駆け足で旅行するほどの体力と気力が残っているか心配です。
結局バスでボンベイまで出てそこで国内線の切符を買ってカルカッタへ出ることにしました。ついでですからボンベイに三日、カルカッタに二日滞在安宿に泊まりながら町のバザールとか博物館を見て回りました。それとインドでは忘れてはならない物、映画も各都市で一回ずつ見に行きました。一ヶ月ぶりのカルカッタのモダンロッジ近辺、相変わらず世界各国からの旅行者が集まっています。私も少しは旅慣れしてきたようで旅先で出会った旅行者が全部自分より数段以上の水準を保っているようには思えなくなりました。この頃から、旅行者にはすごい人ばかりじゃなく、軽いのもいるし、変わったのもいるし俗物もいるし、お坊っちゃんもいるしお嬢ちゃんもいるし、学生もいるしやくざ崩れもいるし沢山のタイプが居るのが判別できるようになってきました。
すごいと思える旅行者は、おおむねその旅行期間が長いのですがある程度までその旅行期間が行ってしまうとその後は旅行の長さは、すごさに反映しなくなってきます。例えば、十日間の日程で一人旅をしてる奴と、三十日間の一人旅をした者と両方初めての海外旅行だったときには旅行の水準という物が仮にあったとしたら、期間の分だけは差が出ます。
ところが六ヶ月の旅行と、一年間の旅行では単純に期間の差は出ません。これが一年と二年、五年と十年になってくるとほとんど期間による差はでなくなってきます。これはもうその人の素質の差で、アスナロはどこまで行ってもアスナロで桧にはなれないのでしょう。
そんなことが解るようになってきました。
私はと言えば、人のことはよく解るようになってきたけれども自分のこととなるとまだまだの様です。でも少なくともこの旅行をしたおかげで、一人旅の貧乏旅行者に対して距離を感じなくなってきました。たった二ヶ月弱の一人旅ですがしっかり貧民旅行者の香りは体に刷り込めたようです。これは次の旅行に絶対役立つ物と思います。一人旅の旅行者の香りとパッケージ旅行者の香りは絶対に違うと思いますから。
バンコックへは切符の有効期間が切れる三日前に到着しました、日本で取っていった席は幸運なことにまだ残っていてリコンファームする事ができました。いまカオサンロードにあるホテルの一室にボーと外を見ながら座っています。たった六十日でしたがこの旅は来てよかったと思いました。「ごーごーアジア」とか「アジアンジャパニーズ」に書いてあることが現実に体験できました。旅ってのはホントに面白くてやめられません。これっきりではなく時間が許す限り何回でも旅には出ようと思います。
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