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トラベルメイトトラベルメイト95

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「トラベルメイト95」
  1. 【 究極のダブルブッキング 】

     数年前の話です、田代さんが経営する旅行会社にあるお客さんから年末のパリ行きの電話を受けました。人数は2名、ちょっと高いけどもエールフランスの直行便を薦めました。でも当然安い方がいいわけでアエロフロートも予約しておきました。

     その年の年末は、エールフランスの席をかなり押さえて行きと帰りのスケジュールをセットして彼の所は売っていました。ところがお客さんの芝山夕子さん(仮名)の希望する出発日と帰国日が、セットした席にうまく当てはまらないのです。そういう場合は個人客の予約(当然割引航空券です)の方で待つしかないわけですがまあ年末と言うこともあり予約はキャンセル待ちです。他に日本航空、オランダ航空等も予約しておきました。

     田代さんの会社は特にエールフランスに関しては年間かなりの席を売ってることもあり航空会社から直接席の仕入れができる一次問屋でした。こういう場合自分の所で全部の席を売りさばくということは稀で、他の旅行会社にも席を卸して年間の送客数を大きくするわけです。日本航空などに関しては彼の所は一次問屋ではないので、他の日本航空の一次問屋をしているところへ予約を回すわけです。

     2−3日すると、いつもエールフランスの席を買ってくれるA社の鈴木さんから予約が入ってきました、12月27日発1月5日帰りのパリ行き2名、名前は芝山夕子他一名、その日の夕方今度はB社の山田さんから同じ予約が、その次の日にはC社の鈴木さんから。そうこうするうち日本航空を入れておいたD社から電話があり、芝山さん他の旅行会社4社からも予約が入っていて、ダブルブックどころじゃない、どこかの会社に絞ってくれとのこと。アエロフロートの予約を入れたところからも、オランダ航空を入れたところからも電話がどんどん入ってきます。田代さんは長年旅行の手配をしていますがこんなケースは初めてです。一応彼女に電話してみました。

    田代「すみません、芝山さんですか、えーっと先日頂いたエールフランスのご予約の件ですが、他の旅行会社にも予約なさっていませんか? 航空会社の方から予約がダブルになってるとの電話があったのですが。」

    芝山「そうですか、友人と一緒に行くもので、友人が予約したのかもしれません調べて後でお電話します。」

     そのご何の電話もきません。予約のキャンセルも変更の電話もきません。他の旅行会社に電話しても予約はそのままだとのこと。ざっと計算しても航空会社は5社で各旅行会社に5社から6社の予約をしている模様、田代さんも顔が広いとはいえ旅行業界すべての会社に顔が利くわけでもないので、すべてを調べるわけにはいきませんが、他の会社にも予約してる可能性は大いにあります。少なく見積もっても30種類以上の予約を彼女たちはしているわけです。

     こうあからさまにあちこち予約をかけられると、各旅行会社やる気は全然なくなってしまいます。お互い暗黙の了解ができあがってしまいました。芝山には絶対席を回すなと。
     彼は詳しくは教えてはくれませんでしたが彼女たちとのやりとりはこうだったみたいです。

    芝山「席のほうまだ回答は来ませんでしょうか。」

    田代「年末ですけども27日のエールフランスの席。たまたまこの日団体が少なくてかなりチャンスがよくなってきてます、今直ぐOKはお出しできませんがかなりチャンスは良いですよ、他の航空会社もどっかひっかかってくるとは思いますが。」

     同じような回答は他の旅行会社も共通して答えたようです。
     彼女が出発できたかどうかはよく解りません、田代さんが知ってる範囲ではOKを出したところはありませんでした。

    芝山さん「チャンスが良いとおっしゃったじゃないですか」
    とあちこちねじ込んだようですが、どこも最初からやる気のないお客さんだったので

    「OKはお出ししていませんよ、チャンスはよかったのですがごめんなさい」
    で終わったようです。

     何事にも限度があります、「消費者は王様、お客様は神様」の言葉を信じてる人があったら一つ覚えておいてください、それが言える人はほんの一握りで、料金を何も聞かず送ってきた請求書をその通り払ってくれるお客さんだけです。

     もう一つあります。これは東京都のさる公官庁に所属する山岳会の人が起こした騒動です。これも年末のピークシーズンでした。12月末にバンコック経由でカトマンズへ飛び、2週間ほど滞在して1月の初旬に帰ってくる日程でした。その年の7月くらいからあちこちの旅行会社に見積もりの問い合わせが入りました。人数は30名ほど。

     どこの旅行会社でも見積もりは似たようなものになります。せいぜい2千円から3千円の差が出るだけです。後は確実に席が取れるかどうかと言うことになりますが、これもどうもいえません。年末のピークの席を前もって押さえている旅行会社もありますが、そこにしたって一社で20席も持っていればいい方です。せっかく押さえてる席を一個の団体で全部使うわけにはいきません。となると予約を新しく起こして、回答が来るのを待つしかありません。

     山岳会の幹事さんもかなり焦ったことは焦ったのでしょう。どこの旅行会社に聞いても「今から予約を入れておくとチャンスは悪くはないですが絶対に取れるかと言うといますぐ回答は出せません、最終的には回答は出発1カ月くらい前になると思います。」と言われるわけですから。

     5社の旅行会社に予約を入れました、そして各旅行会社に毎日のようにどうでしょうと連絡を入れ続けました。旅行会社から連絡を受けた航空会社では、延べ人数150人あまりにふくれあがったグループを前にして、定期便では運べそうもないのでチャーター便を考え始めました。東京バンコック間は定期便の数も多いので何とかなるとしてもバンコックからカトマンズ間は定期便も毎日は飛んでいないし、機材もそんなに大きくはありません。この区間にチャーターを一本入れようかという話が持ち上がりました。そのため各旅行会社担当のセールスの者にグループは確実にいくのかチェックを入れさせます。毎日のように、連絡が入ってくるグループですから各旅行会社担当の航空会社担当セールスマンはすべて返事はイエスです。

     さてほぼ出発一ヶ月前になってチャーター便でOKが出せるという段階で各旅行会社に席が取れると連絡がいきますと、キャンセルが相次ぎ結局残ったのは28人の名前だけ。残りはあっと言う間に消え去ってしまいました。
     
     5社各30人の予約が航空会社に入っていた訳で、延べ人数150人が実際の数に絞り込まれただけの話なのですが現場はパニックです。
     
    「OKをもらっていたわけではないし、他の旅行会社をあたっていたのは私ではないメンバーが手分けしてあちこち回っていた、各旅行会社ともOKをもらえなかったのでしょうがないじゃないですか。少なくとも9月の時点で席が取れたと言ってもらえたらこんなことにはならなかった。」

     それはそうです。9月でOK出せるなら出しています。席が取れる見込みがないのにOKを出すことはできません。70年代後半の東南アジアの航空機の席は日本人がほとんど利用していた時代ならば日本の支店の担当にだいたいのコミットをもらえば6月だろうが7月だろうが、たぶん取れますと言い切ってしまうことができました。

     80年代に入ってからは韓国、マレーシア、シンガポール、タイ、台湾、香港等の国の人も仕事とか観光でどんどん海外に出るようになってきました。そうなると日本だけの需要だけで席の予約状況が判断できなくなってきます。毎年30名のグループが出るのでしたらまだ何とかなったかもしれませんが、その年だけのスポットであればこれはきついです。こう言うことがおきないためにはほぼ信頼できそうな旅行会社を2、3社作っておくことです。日頃の常連さんというのはやはり大事にされますし、お互いの癖を知っておくのもいい手配ができる第一歩です。

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