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入門講座理論編ー(17)
「深夜特急」に関しては彼は実際の体験の時から10年近く作品をため込んでいます。その間に当然新鮮さは失われ、実際に使える実用という部分でも利用価値はほとんどなくなっています。その代わり読み物として熟成度がましてきてます。
このことは書斎でしかこの本を読まない人にはなかなか良いことです。実際旅行する人にとっても年取ってそれなりに世の中すれてきてる人にとっては、自分の旅行の整理用に比較する対象としては利用価値大でしょう。
ところがまだ実社会にでていない16から21,2才位のものにとっては劇薬として作用します。良い例が、90年代になってデビューしてきた「小林紀晴」です。彼のデビュー作「アジアンジャパニーズ」に全く典型的な例としてでてきます。(彼がその当時22才までであったかどうかは別問題です、むしろ読者が20歳前後ということが問題です)
この本の最初の方で、バンコックへ宿泊の情報もなにも持たず、団体でなく個人旅行であるという理由で途中一緒になったカナダ人からも情報を仕入れず、結局美人局にあって危ない目に遭う。それをさも旅の重要なエピソードのように取り上げています。
このあたり、「深夜特急」の香港の空港からホテルへ行くシーンにかなり影響されてるというか、同じ事をしてみたかった様に思います。
以前なら、海外旅行は特別な少数の人しか出かけられないものでした。今はちょっとしたお金と暇あればバンコックなど国内より安く飛べる状況になっています。そして彼はそのとっかかりの84年に発表を始めました。バブル経済の始まりの頃です。売れるチャンスだと担当編集者共々決断したのでしょう。
そして売れました、アジア中近東の貧乏旅行者、個人旅行者のバイブルまでになってきたのです。ちょうど、60年代70年代に「小田実」の「なんでも見てやろう」がそうだった様にです。ですが、まだこの本は、海外旅行が一般的ではない時代の本でしたからほとんどの人は書斎で読む普通の本として扱われました。ほんの少数の者達が、心の整理用にガイドブック的な使い方もしただけでした。
「深夜特急」が発行された頃は全く違います。ちょっとしたマニアなら(そうガンガンに努力しなくとも良いという意味で「ちょっとした」)中国大陸の中うろうろできた時代です。一ヶ月分の学生アルバイトの給料で一ヶ月は中国大陸内に滞在できる様になった時です。むろん日本からの往復の交通機関の運賃込みでです。
そんな時代だから「深夜特急」が商売になると見込んで発行されたのでしょう。そのことは著者も編集者も十分認識した上でのことだったに違いありません。売れれば売れるだけ、同じ事を追体験してみたいと思う人が増えるのは自明の理です。しかもマニアの人たちではなく、その一歩手前の人たちに非常に大きな影響与えたようです。
マニアの人たちそれなりのお金使って、それなりの旅行回数と、それなりとほぼ同じくらいのトラブル体験してマニアになってきています。そうでない人たちが「深夜特急OS」使って実際旅行に出発したら、結果は、小林紀晴の「アジアンジャパニーズ」です。
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