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入門講座理論編ー(16)
正直なところ「沢木耕太郎」自身「深夜特急」を書いたからといって自分を旅行中心に活動している作家とは思ってないでしょう。実際その著作は幅広い分野にまたがっています。そしてたぶん「深夜特急」を読んで旅行にでたとか、「深夜特急」風旅行スタイルという言葉にも、喜んではいないでしょう。
あれはあくまで、20代中盤の酔狂な考えの時の熱病みたいなもので、それについて私の中でナッシングとは言わないがオールモストでもない。勝手に私が本人の考えを推測するのもおかしな話ですが、当たらずといえども近い感じはします。
私の友人でも同じようなことを言う人もいます。70年代はじめにインドへ行って中近東もそれなりに回ってきた奴なのですが、彼はこういいます。
「沢木耕太郎は、旅行ライターじゃないし、あの本も単なる旅行記ではないし、ましてやガイドブックでもない。勝手に、読者が個人旅行のOSに祭り上げているだけだ。」
それはある面では全く正しいのです。中に安宿の情報が入っているわけではないし、航空券の買い方が書いてあるわけでもありません。ただ単に、何月何日晴れ今日は香港でどこの観光地へ行きましたとなってるわけでもありません。通常の旅行もののように直接的に旅行者向けの本でもありません。
実際読み物として面白いですし。なるほどなと思う部分もあります。
このあたりヨークわかるのですが、旅行した時期、推敲した期間、発表した時期、単行本発刊した年月日、そのあたりじっくり世の中の動向の上に張り合わせてみると、不器用にあちこち試行錯誤しながらというより、周りのブレインも含めて世の中の動向をじっと見つめ待ち反動付けて一気に勝負した形跡しか見えないのです。究極の傍観者とでも言えばいいのでしょうか。そして語り部かな。
この方法の真反対の路線取っていったのがマニア向け旅行雑誌「オデッセイ」です。待つとか、出し惜しみとか、推敲とかとにかく情報が少しでも遅れることは恥とばかり旅行マニアの先端を行く情報をどんどん発表していったのです。
それが売れるとか受け入れられるとかということより、人より早く、他人が知らない地域の、なるべく詳しい実用情報を地図付きで発表する。希少価値があって先進性のあるものは結局最終的には、創業者利益として自分たちに返ってくる。
結局はかえってはきませんでした。マニアは少数です、先駆性あることも少ないと同意語です、他人が知らない地域は、当然ほとんど売れません。詳しい実用地図は作製に時間かかります。よく考えると当たり前のことなんですが、少数で先駆性あることほどわくわくします。これも理解できます。
片や、狭いジャンルの旅行以外でも稼げる才能と、メディアの中での個人旅行者としては先駆的な位置、大手メディアの中で活動できる十分レイノルズ数の大きい「沢木耕太郎」。たぶん彼は70年代後半には、ボディショップのいう「7号」のモデルの資格十分に備えていたようです。
先駆性は、彼はほとんど皆無です。一般社会での個人旅行者としても、少数者ではありません。分母が十分大きくなってからの出発です。年齢も26才、実社会のかなりのコネと経験あり。昔も今も長期旅行にでやすいのは20歳前後の学生あるいは今はプー太郎(昔はぷー太郎などいませんでした)、ほとんどの人が新進建築家「磯崎新」と食事できるようなコネクションなし。
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