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病の細道

 

第25回 ランゲルハルス島 (2002/01/18)

 

昨日、インシュリン注射を止め飲み薬にかえた。インシュリンの分泌促進薬で、すい臓でのインシュリンの製造を助ける。注射はインシュリンそのものを補う方法だが、この薬は自前のインシュリンをつくれることを前提にしている。

一日4回血糖値をはかる。食事前3回と就寝前の1回。このうち朝起きて朝食前にはかる血糖値がその人のベースになる値になるようだ。一般的に血糖値は消化のため食後に高くなりだんだんもとにもどる。朝食前は夕食からもっとも食間がながく、消化の影響が少ない。

最近は朝食前血糖値は140前後で昨日もそうだった。朝8時食事前に錠剤を飲み食事をした。そのあといつものようにメールを書き、足の傷の消毒をした。11時半、昼食前の血糖値を測定。ぎょ、256になっている。こんな高い値は入院当初しかなかった。やはり自前のインシュリンはできないのか。ガックリ。

午後、メールを出しに公衆電話まで歩いていった。何かボーっとして元気がでない。そのまま夕方までベットで安静にして過ごした。夕食前の血糖値検査。はて値は? 108。信じられなかった。おかしいかもと思って再検査してもらった。110。昼前の薬が効いた。自前のインシュリンだ。やった。

しかし、朝食から時間がなかったとはいえ昼前の血糖値がわるすぎた。足の傷の回復のため血糖値を上げるわけにはいかない。安全のため、また注射に戻すことになった。しばらくしてから錠剤に再トライすることになった。でも明るい見とおしがひらけた。

インシュリンがつくられるすい臓は胃の裏側にあり、腸の入り口とつながっている。つまり腸での消化をたすける酵素などを分泌し腸に送り込む。そのときにインシュリンもいっしょにでて消化を調整している。

すい臓はほとんどが消化酵素をつくる細胞からできている。その中でところどころにそれとは違った小さな細胞郡が点在している。消化酵素細胞の海のなかの小さな島のように見えることから、発見者の名前にちなんでランゲルハルス島と呼ばれている。

イラストで見ると、ランゲルハルス島は消化酵素細胞より少し大きめで円形をしている。島の陸地にはメインストリートを中心に小さな家が密集している。B細胞と呼ばれるこの家こそインシュリンの製造工場だ。

自分の場合、工場の生産設備が老朽化し生産性が悪くなってしまったのだ。インシュリン分泌促進剤は工場の機械に円滑油を注入する。機械が壊れていなければ生産が甦る。昨日の結果では自分の機械は錆びついているがどうやらまだ動いてくれそうな気配もある。ガンバレB君。

ランゲルハルス島の絵は、形はすこし違うが、かっての長崎の出島に似ている。17世紀、徳川幕府は鎖国を敷き、わずか清国とオランダのみとの貿易を認めていた。出島はオランダの唯一の窓口だった。回りを運河で囲まれ一本の橋を介して交易が行われた。

しかしそこからはヨーロッパ近代文明の品々や学問、思想がもたらされた。日本近代医学の始まりをつげる「解体新書」の原本もここから入ってきた。出島の果たした役割の重大さは、どこか人体におけるランゲルハルス島の役割に似ているような気がする。

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