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病の細道

 

第17回 時代に生かされて (2002/01/10) 

 

入院したときには39度ちかい熱が続いていた。しかし汗をかいたりすると体温は急激に下がり35.9度にまで落ちた。そしてまた高温になる。このように体温のはげしい変動をくりかえすのが敗血症の特徴だ。名前からも類推できるように、血液の中にばい菌が入り込み、増殖して全身にまわり血液が汚染されて、最悪のばあい死に至る。

45年前、8歳のときに敗血症になった。北海道の親戚をたずねて一家で旅行した。当時は東京から札幌に行くには24時間以上かかった。出かける前から少し具合が悪かったが、札幌についてしばらくすると高熱がでるようになった。子供は急に熱を出しやすいし、40度になることもめずらしくないからはじめはそんなに深刻に考えられていなかったらしいが、一向になおらない。

近所のお医者さんに診てもらうと敗血症と診断された。当時、皇室のどなたかが敗血症で亡くなったこともあり、敗血症はとても恐れられていた。両親も一時は最悪のことも考えたらしい。子供だった自分はそんな深刻さなどわからず、いつも母がそばにいてくれることがうれしかった。母は中学校の先生で、いつもは一緒にいてくれる時間があまりなかったからおもいきり甘えた。

死に至る病、敗血症。しかし時代は自分に味方した。その数年前にストレプトマイシンという敗血症の特効薬が開発されていたのだ。非常に高価な薬だったらしいが、やっとのことでそれをとりよせ難局を乗りこえた。全快するには数ヶ月を要したが、人からは命拾いしたといわれたりした。

今回、ふたたび敗血症になったが、抗生剤の発達でそれほど深刻な病気ではなくなっていた。むしろ問題は糖尿病や心臓だった。血液のばい菌よりも糖が問題だった。しかし血糖値はインシュリン
注射で劇的に下がり、現在は小康を得るまでになった。インシュリンは、以前、牛や豚のすい臓、魚などから抽出されていたようだが、人間のインシュリンとは少し化学構造に違いがあり効きかたがよくなっかったらしい。それが現在では遺伝子工学で正確に人間のものと同じインシュリンが作られるようになった。時代はまたしても自分に味方したのだ。

そんなことを考えると、つくづく自分は時代に生かされていると思う。1947年、20世紀前半の生まれ。様々なことを見てきた。初の人工衛星、ガガーリンの宇宙初飛行、トランジスタラジオ、モノクロテレビ、カラーテレビ、月面到着、パソコン、FAX、インターネット。人生という旅のなかで、時代はこんなに多くの体験をさせてくれた。これからも時代に生かされているかぎり旅はつづく。

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