vol.096 ラオス (18) 
                  部屋は個室になっていました。これは考えて見れば当然のことで、お客を泊める部屋ではありませんので、通常のホテルの様に、二人部屋にする必要は更々ないわけです。かえって個室のほうが仕事で滞在するにはいいわけです。 
                  それにしても建設中の活気はどこにもありませんでした。季節の理由で工事はしてないのでしょうか、よく分かりません。   
                  手早く荷物を整理して、シャワー浴びてさっきの汗を流しベランダへ急ぎました。机の上にはお茶が用意してありました。まかないのおばさんがちょうど果物とお菓子を運んでくるところでした。 
                      
                  中村はもう椅子に座ってくつろいでいます。なんかのんびりできるところです。  
                  「いやー、久々にのんびりできます。自然があっていいとこですね。」  
                    永井「うーん、考えようによっちゃーね。でも山の中で何もないところだからね。生活は健康的になるわな。夜遊びなんかできんしね。」 
                     
                    「工事今やってないんですか。」  
                  大阪ではよく工事現場のアルバイトやりましたが、昼間はもっと活気があります。ここが実際の現場でなくとも、現場を指示する事務所とか、飯場は人の出入りがかなりありそれなりにざわざわしているものです。 
                   
                  永井「ダムはもうちょっとで完成なんだけど、今工事中止中でね。後10日もしないうちまた始まると思うけど。」  
                    私「そうなんですかそれで今閑散としとるんですね。」  
                    永井「そう、最近ちょっとドンパチあってね、それでね。」  
                    中村「ドンパチって、ベトナム戦争のあの余波のドンパチですか?」  
                    永井「そうだね、ベトコンとは違うみたいだけど、ゲリラだわね。」  
                    中村「へー、ここおそわれたんですか?」  
                    永井「いや、奴ら日本人はおそってこないよ、今んところは。おそわれたのはアメリカ人のグループで、この近くにベース持ってる連中だけど、一人か二人死んだんじゃないかな。平和部隊か宣教師かの連中だと思うけど。」 
                     
                    私「最近ですか?」  
                    永井「ああ、ほんの三週間ほど前よ。」  
                  げっ、最近の話ではないですか。  
                  私「それでどうなったんですか。」  
                    永井「どうもこうも、夜中から明け方にかけて始まって2、3時間で終わったよ。すぐラオス政府軍が駆けつけてきたのでゲリラはジャングルにまた戻って、それで終わりになったけど。」 
                     
                    私「ここへはとばっちりというか、流れ弾とか飛んでこなかったんですか?」  
                    永井「こっちねらった訳じゃないからね。ただね、端で見てる分には夜の戦争はきれいだよ。音がいやだけどね、ロケット砲の着弾の音は腹に響くよ。ズッシーンと来て、その次の弾がヒュルヒュル、ピー、ズッシーン。照明弾が打ち上げられて、森が一瞬明るくなると、パンパンパンと小銃の撃ち合いが始まって、すぐ暗くなる。今度はロケット砲よ。花火みたいに、火花とばしながら空中飛んで、ズッシーン。」 
                   
                  実体験をした人の生々しい話です。中村も私も黙りこくってしまいました。  
                  永井「ここ二週間は安全よ。ハッハッ、それにこっちは襲わないから。」  
                    私「そうですね、ハッハッ。」  
                  私も一緒に笑うしかありません。少し顔がひきつりながらの笑いでした。  
                    
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