vol.089 ラオス (11)
「先輩、見えますか!」
わー!、 一瞬心臓が止まりそうでした。 多分中村は普通にしゃべったつもりでしょうが、私にとっては大声で呼びかけられたように思えました。しかも、壁になりきって壁とともに呼吸しているのに。
「しーーー。」
唇に指をあて、中村をにらみつけました。 中村、私の真剣な表情を見て、にやけていた頬が引き締まりました。 かすれた低い声で私は続けました。
「こら、大きな声だすんじゃない!そこからは立ってくるんじゃない。四つんばい四つんばい。」
「へっ!」
中村絶句したままどうしていいかわからない様子です。これだから素人は困る。覗きにだって職人芸はあるし覗き道はそれなりにむずかしいのです。
「もうやってる、やってるから音立てずにこっちはってこい。」
「もうやってますか?」
中村とぼけた声で答えました。心なしか声が上ずってます。 中村も四つんばいで這ってきました。ただ素人の悲しさで、這うごとに音を立てています。(私だってさっきまで素人だったんですけどね)
「こら!もっと音立てずにゆっくり。」
やっと彼も壁にたどりつきました。
「あのさ、真ん中の穴は大きすぎて向こうからはばれそうだから、そっちの左の下、そうそう、そこそこ。」
それから一時間ほど私ら、壁に張りついたままでした。 頭の中の日記帳は、とっくに、その日に書ける分のスペースは、なくなっていました。完璧に、オーバーフローを起こしていました。
巨大な画像と声と音がいったん頭の中にとどまって、てっぺんから蒸発してゆきました。 ライブショウが終わったのは、午前4時を回っていました。
疲れました、すごくためにはなりましたが。
「明日さ、というか、今日の朝、隣のアベック朝飯食いにいってるとこ見に行こうぜ。昼間の普通の顔も見てみたいやんか。」
「えー、先輩悪趣味ですね。」
「そうか?、昼間見たら絶対おもろいって!」
完全に私このとき、おやじ化しておりました。 それで、朝7時にはおきてコーヒーショップで朝食をとることにしました。
すぐ私ら熟睡してしまったようです。その日二人とも目が覚めたのは、午前10時を回っていました。
隣人は? 隣人はですね、私たちがおきたころにはチェックアウトしてしまったようで、隣の部屋はメードさんが掃除を始めていました。
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