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田森くんは西へ Index page へ

vol.068 タイ・バンコク (34)

 

私「そのお金は払えない、高すぎる。」
ジミー「今持ち合わせがないだけだ、必ず返すからそのお金貸してくれ。」  

彼の目は鋭いすごみのある目に変わっています。  
後ろでトムと船頭が腕組みしながらこちらを見ています。やっと鈍感な私にも状況が見えてきました。 こいつらぐるだ。船はさっきよりもっと河の中心に向かって進んでいます。ここからならどんな大声あげても岸には声は届きません。頼みの岸部の船着き場には人っ子一人いません。

私「まず50バーツは払う、それ以上はさっき君たちが払ったお金で交渉してみてくれ」
ここはまず喋り続けるしかありません。会話がとぎれたとたんにやばいことが起 こりそうです。

ジミー「それは駄目だ、とにかくあの日本円を貸せてくれ、後で必ず返す。値段決めて乗らなかったミスもあるからこれ以上交渉はできない。」
「冗談じゃないぜ、おまえらぐるだろう。金なんか払えないよ」
と言いたいな、とは思いました。 しかしこの状況では、善良なとっぽい大学生のままが良さそうです。自分では認めたくないですが実際に外見もそうでしたし、ここまで親切なんだから本当に今持ち合わせがないだけなんじゃないかとも半分は信じてました。  

ジミーの目は、最初の金持ちのお坊ちゃんで少し不良と言う感じから、さらにぶっ飛んだ鋭い目に変わっています。喉がからからになってきました。口が粘ついて舌が頬の内側に張り付きます。 なかなか言葉がでてきません。でも喋らなければ、よけいど壷にはまっていきそ うです。

私「今日本円しかないから、かれ船頭にはバーツが良いんじゃないの。いったん両替しに銀行に行ってそれから払うよ。」
ジミー「いや日本の円でも良い、後で必ず返すから、俺達信用してくれよ。」

えっ、船頭に聞かなくてあんたが直接答えていいのかよ。やっぱおまえがリーダーだろと頭の中では言葉になりました。その通りには口は動きません。ない頭を絞った時間稼ぎも、彼らには通じないようです。

私「明日には金返してくれるのかい?」
ジミー「明日には大丈夫さ、もし遅れてもあさってにはホテルへ金持っていくよ。」

ジミーの目はまたもとのちょっと不良っぽい人なつっこい目に変わっています。 船頭の方に向かって言葉をかけました。やっと岸の方へ向かってくれるようです。 仕方ありません、バインダーのポケットから大枚一万八千円を抜き出して彼に渡しました。実はあと二千円ほどバインダーの表紙のポケットにまだあったのですが当然ばれないようにしました。

ジミー「悪いね、トラブルになってしまって、お詫びに明日はおいしいタイ料理をおごるよ。」

ボートはあっと言う間に船着き場に着きました。

私「明日何時にお金持ってきてくれる、日本円は用意できるの。」
ジミー「いや日本円は難しい、アメリカドルで返すよ、今レートはすぐにはわからないから明日計算して持っていく。」

ちょっと安心しました、彼らはお金は必ず返すと言ってくれているわけですから。