vol.040 タイ・バンコク (06)
観光局のカウンターで粘って、わかるまで聞き返す度胸はまだ私にはありませんでした。
「オッケイ、オッケイ、ディスイズ、タイソングリート」
女の係り員がマーキングしてくれた地図を、指で押さえながら私はこれ以上はないという笑顔で挨拶しました。たぶんもう少しで顔が痙攣始めるくらいの笑顔だったと思います。
駅をでてラマ4世通りを、東に歩きました。ほんの5分も歩かないところにタイソングリートはありました。ホテルはちゃんと開いていました。
一階が食堂になっていて奥と二階が(二階以上あったのかも知れません記憶が定かでありません)部屋になっていました。食堂は典型的な庶民の中華レストラ
ンでした。入り口に肉とか魚、野菜が並べてあるガラスのケースがあって、奥で苦虫をかみつぶしたような親父がでかい中華包丁を持って料理しています。
ボーイは田舎から出たての若い少年が2,3人かけずり回っていて、キャッシャーには目がちょっとロンドンパリの20代前半のおとなしそうな青年が座っていました。
お客はタイ人はほとんどいなくて白人、黒人、黄色い人がごちゃごちゃいっぱいいました。
「イクスキューズ、ミー、ドウ、ユウ、ハブ、ベイカント、ルーム?」
ロンドンパリのお兄さんに話しかけました。
近くのテーブルに座っている旅行者が一瞬話を中断してこちらを見ました。まずい、変な英語を喋ったのではないだろうか、発音が変なのか、英語の単語の使い方が間違っているのか。緊張で口の中が粘つきます。
「アアー?、ユウ、ステイ、?」
兄ちゃんが答えました。 おおなんというシンプルな英語。しかもわかりやすい。 あわてて私答えました。
「イエス、イエス、ステイ、ヒア」
兄ちゃん 「ハウ、メニー、デイズ」
わかるわかる、私にも英語が分かります。香港でのそれなりに喋ったのですが、あのときはだいたい誰か日本人が隣にいました。一人で喋り始めたのは、ここバンコックに到着してからです。バスの中でもたどたどしい英語の会話をしたのですが、ここは外人旅行者が周りにいます。(私もタイでは一応外人旅行者なのですが、うん、でも外人旅行者とあえて言いたいです)それに自分の格好がいかにも旅行出始めの学生さんスタイルであることも十分承知しておりました。ここの食堂に座っている旅慣れした旅行者とは一目で違うことはバレバレです。
「アー、ワンウイーク」
ドウだ、通じてるぞ、誇らしげに後ろのテーブルを振り返りました。男の白人が三人座っていたのですが、誰ももう私に注目してる人などいませんでした。
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