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トラベルメイト片山くんが行く

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  1. 【 片山くんが行く(29) 】

     次の日早速オーレ君に連れられて彼の部屋に行きました。そこはホテルから歩いて10分くらいの住宅街の中でした。東京でいえば代々木八幡か笹塚と言うところです。ビルとしては表通りに面してはいたのですが、表の出入り口は封鎖されていますから裏口からはいるわけです。裏口のドアにはオーレが勝手に付けたらしい鍵がありました。

     彼が住んでいたのは一階は一階なのですが、道より一段低くなってる一階でした。半地下と言っても良いくらいです。彼によれば、こういう半地下には健康上の理由で住んではいけないという法律がデンマークにはあって、不法占拠も悪いには悪いのだが、半地下に住んでる理由でも退去処分になる可能性があるそうです。

     私らバイト初めてから急に英語がうまくなったわけではありませんので、河本君が彼とつっかえ、つっかえ話した内容を河本君なりに理解したのがこんな内容でした。でもまあ、ただの魅力には勝てません。

     ビルと言っても2階建ての建物で、オーレの住んでいる部分以外は商店が入っていたり、二階部分には人が住んでいました。彼のいる部屋には一応家具らしい物が置いてありました。 家具らしいというのは、たぶん拾ってきたのではないかと思えるソフアー、にイス机、ぼろですが洋服ダンスらしいものもありました。

     もう一部屋はなにもない、がらんとしてまだ建築資材が残っている部屋でした。贅沢は言えません。屋根があるところがただで借りられるのですから。早速、長らくホテルの従業員用ロッカーに放り込んであったリュックと寝袋を持って移動です。

     彼が何者で、そこの部屋の何であったかはいまだに解りません。解っているのは、ホテルでの職業はコック見習い年齢20前後(自分では21才と言っていました)デンマーク人、割と面倒見のいいプータロウに近い精神構造の青年と言うことだけでした。お互いの旅行好きの臭いが呼んだのかもしれません。

     想像すればいくらでもストーリーは作れました。例えば、彼のおじさんが経営していたお店がうまくいかず、その精算の後が今の部屋で所有権は宙ぶらりんになっている、で彼がちゃっかり利用させてもらってる、あるいは遠い親戚が持ってる部屋でほんの一年前まで人に貸していたけれどそこがつぶれ未だ借り手が付かないので管理の意味もかねて住み込んでいる。 後たくさんのバージョンを河本と考えました。全てのストーリーがありそうで、全部が完璧に矛盾なく説明できるストーリーも出来上がりません。

     彼はしつこく警察が怖いからここで火を使って料理などしないこと、酔っぱらって大騒ぎをしないこと、此の近所をあまりうろうろしないことの三点を強調しました。 電気、水道、ガスは使えなくなってました。文字通り部屋があるだけの部屋でした。明かりも電気が来てないので電灯が使えません。彼はキャンプ用のランタンを使用していました。私らそんな準備はないので彼からろうそくを借りました。明日はまずバイト終わったらろうそくを買いに行かなければなりません。

     寝っころがって、河本と雑談していてさらに大切なことに気づきました。そうだトイレはどうすりゃいいんだ。電気、ガス、水道が来てなければ、此の部屋ではまずトイレが出来ることはあり得ません。隣のドアをノックして彼に聞きました。

    私「オーレ、トイレはどうしたらいいんだ」

    オーレ「ああ、トイレね、トイレは外にあるけど私達使えないから、バケツ貸す    からそれにして」

    河本「ピスはいいけど、シットはどうするの?」

    彼はきっぱりと言い切りましたオーレ「シットはここではしないでくれる。どうしてもという場合前の共同住宅    のトイレ使ってもいいけどそれ以外は、ホテルでしてってよ。」

    河本「バケツはどう処分するの」

    オーレ「朝自分で、トイレまで持っていって捨てて」

     バケツを毎朝共同トイレに運ぶより、本人が行った方が目立たないとは思ったのですが、大家が言うことです逆らえません。

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