VOL.60
インド(58) コラム カンフーブーム
インドで私はアイドルだった。街を歩くと、少年達がついてきてしまうのだ。折しもインドは、カンフー映画の大ブーム。都会では、カンフーや空手道場が人気を集め始めていた。
「ジャッキーチェン!」
子ども達は、ニコニコしながらそう言って、私の後をついてくる。身につけているのは、ダボダボのTシャツに、ゆったりした紺色のパンツ。このパンツが、カンフーパンツにしか見えなかったらしい。
「ジャッキーチェン!」
と言われても、始めは悪い気はしなかった。愛嬌のある笑顔と、美しい動き。何を隠そう、私もジャッキーの大ファンである。少年達にしたところで、私が本物のジャッキーだと思っている訳ではない。ところが、行く先々で少年達は同じリアクションを示すのである。ある時、ニコニコしながらついてくる少年達に私は言った。
「私はジャッキーチェンの妹じゃないのよ!」
でも、奴らはついてくるのだ。あいかわらず
「ジャッキーチェン!」
と言いながら。
彼らは私に、何を期待していたのだろう。
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