「旅行記」
トラベルメイト
監修・編集

リロとハツキの自転車旅行

 

VOL.41 インド(39) 峠を越えてタミルナード州(理路) 2

翌日、カダイヤナルアを発ち、私たちは大都市マドゥライをめざし、北東へ向かった。

途中、二つの町を通過し、スリビリプタールという町の手前にさしかかった頃だった。遠くの方に何かとてつもなく大きな物が二つみえる。
(ありゃなんだ!)
四人とも、ペダルに力が入り、ピッチがあがる。よほど大きなものらしく、なかなか近づけない。次第に輪郭をあらわにしたその巨大な建造物は、空から舞降りた二台の宇宙船のようにも見える。やがて私たちの前方に巨大な長方形のピラミッドが姿を現した。ガイドのグラビアページでみたマドゥライのミナクシ寺院と同じ形だ。
(で、でかい!)
高さは五十メートルはあろうか。皆、しばらく見とれて声もでない。  

これまでインドを旅した中で、こんな刺激的な形の建物は見たことがなかった。 ピラミッドの表面には、人や動物の彫刻がびっしりと施されている。遠くからみると、これが宇宙船の部品のようなメカニックな印象を与え、私に着陸船を連想させたのだ。ガイドによると、ゴプラム(塔門)と呼ばれるこのタワーのような寺院建築や外側の華麗な彫刻は、その昔、南インドに栄えたドラヴィダ王国の時代につくられたものだという。  
私は、学校の教科書にも出てくるこのタイプの建物は、てっきりマドゥライで見ることになると思いこんでいた。目の前にそびえたつ塔門は五八メートルもあり、南インドでもっとも大きな物の一つであるにもかかわらず、ガイドにはこの町の地名さえでていなかった。そのおかげで私たちは予期せぬところで意外な発見をすることができた。  

ガイドの情報はホテルさがしにはとても役立ち重宝する。けれども、なにもかもガイドで説明されていると、かえってそれが災いして、今回のような未知との遭遇に胸をおどらせることもなくなってしまう。

「リィロー、ココナッツよ!」

私が先頭を走っていると、後ろの方からイヴォンヌの声が飛んできた。見ると左手の路肩で、ココナッツ売りが三軒も店をだしている。

「オーケー、じゃあ止まるよー」

私たちは、木陰を見つけて自転車を立てかけた。店といっても机ひとつあるわけではない。うす緑色のつるりとした肌のやしの実が、地面の上に無造作に山盛りにされているだけだ。その隣には、飲み終わって割られた殻が、これまた足の踏み場もないほど散乱していた。その中で売り子のお兄さんは、客が選んだココナッツの頭をなたで割っているところだった。

「ひとついくら?」
「二ルピー四十パイサ」
「オーケー、どれがいいかなぁ」

四人は、やしの実の山に分け入り、おいしいジュースがたっぷり入っていそうなやつを選び始めた。  
サイクリングの途中で水分を補給する手段として、インドでは、やしの実の果汁が一番良い方法といえる。自然の産物なので、これ以上衛生的な飲物はない。それに一○○%天然のジュースは、おなかにやさしく栄養もある。ビン入りの炭酸水を四ルピーだして飲むことと比べたら、半分の値段で量も倍はある。おまけに、飲んだ後は、ゼリー状の果肉を食べることもできるのだから、こんな良い物はない。  

私たちは、毎朝、水道の水をフィルタで漉して、自転車のボトルにつめていた。しかし、残念ながら、南インドの水はミネラル分の味がつよく、飲料に適さないことが多かった。

「これはよさそうですよ」
売り子の兄さんが、一つ選んでくれた。

「じゃ、それをトライしてみるよ」 

カッ、カッ、カッツ。 お兄さんは器用な手付きで頭の部分をナタで斜めに切り落とす。穴が顔をだしたら、そこにストローをいれて吸う。中をのぞくと、透明な液体が乳白色の果肉につつまれゆれている。これはまさしく、天と地の恵みが凝縮した命の水だ。

「んぐんぐんぐ、ふーっうまい!」

少し青臭さがあるが、かすかな酸味と控えめな甘さが渇いた喉をうるおしてくれる。二十センチくらいのものなら量もたっぷりで、一個で十分満足できる。飲み終わったら、空になった実をお兄さんに渡して、今度は殻を割ってもらう。この時、なたで殻をうすく切ってもらって、スプーンのかわりにする。殻の内側をみると、半透明の白いゼリーがぷるぷるしていた。これは当たりだ。

「オー、ベリーグー」

店のお兄さんは、自分で選んだせいかやたらにほめる。ゼリーの味は少しクセがあるものの、食用ココナツの白い実と同じコクのある味がする。

「おーっと残念」

となりで飲んでいたおじさんのココナツは、割ってみると中のゼリーがなかった。これはハズレ。おじさんは気にしない様子だったが、店のお兄さんがさも申し訳なさそうにしているのがおかしい。  
ふと振り返ると、イヴォンヌがとなりの店まで出張して物色している。

「パトリック、こっちのほうが安いわ」
彼女がこちらに向かっててまねきしている。

「やれやれ、きょうはいつになったら着くことやら」
彼は掌を上に向け、肩をすくめてみせた。

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