VOL.25 インド(23) 白人サイクリストのカップルと出会う 2
このあたりの地形はまったく起伏がなく、高さは海面と変わらない。そのため内陸から流れでる川の水が海に注ぐ直前に湖や沼をつくり、一帯に美しい湖水地帯を形成している。川や運河には大小さまざまなボートが往来し、そののどかな風景にはうっとりさせられる。
アレッピーまではおよそ六〇キロの行程だ。パトリックが先頭を走り私、イヴォンヌ、葉月と後に続いた。二人で走るときは、私が先頭にたち、後ろから葉月が来ているかどうか、バックミラーでチェックしながら走る。私たちにとって、四人で走ることも外国人と一緒に行動することも今回が初めてだ。何だかワクワクした気分になってくる。
道案内は先頭のパトリックに任せて、私はまわりの景色を楽しんで走った。そのせいか、数十キロ走っても、いつものような気疲れが感じられない。こちらを見るまわりの人たちの様子も変わった。これまでは好奇心を抑えられない自転車のインド人に、不用意に接近されて、たびたび危険な思いをしたが、四人になってからは少し距離をおいて見物されるようになった。二人で走っていても、お互いの距離が離れれば、人目には個人旅行者にしか見えない。それがたまたまレーサーパンツをはいた外国人女性だったりすれば、インドでなくても誰でも注目するだろうし、自転車に乗っている人ならついて行きたくなることもあるだろう。(ただこの国では、そういった人の数が半端ではないところが問題なのだ)ところがこれが四人になると、団体グループツアーの一部のように見える。いままで好奇の目にさらされるだけだったのが、こちらから目を向ける余裕が生まれた。人数は倍だがそのメリットは二乗倍くらいに感じられる。
約三時間あまり走ったのち、私たちはアレッピーに到着した。とりあえず休憩しようということになり、ガイドに出ているホテルの食堂で乾いた喉をうるおした。
「あーつかれた。それじゃあもう一軒見てくる」
イヴォンヌはそういって、休憩もそこそこに立ち上がると、別のホテルを見にいった。
「いやーえらいなぁ。うちなんか、道聞くのもホテル探すのも、みんな僕がやっているんですよ」
今日はこんな愚痴の相手をしてくれる人がいてうれしい。
「いやね、最初は私が部屋を見て決めていたんだけど、イヴォンヌが納得しないことが多くてね、それじゃあ君が決めればいいよってことになって、宿探しはもっぱら彼女の仕事になったんだ。」
パトリックはしかたないさというふうに肩をすくめてみせた。
一日走ったあとの慣れない街での宿探しは、良い部屋が見つからなかったりするといらいらすることが多い。とくにホテルがたくさんある街では、どこかで良い部屋が見つかりそうな気がして、ついもう一軒とまわるうちに時間の無駄使いをしてしまう。良い部屋といっても所詮ボトムエンドの、これより下のない安宿だ。手垢の染みついた薄暗い部屋を見てまわるうちに、一日の疲れがどっと足に出ることが多い。
「ボートの情報が手に入ったわ。なんとか自転車も乗せられそうよ。ホテルはここのほうがましみたいね」
イヴォンヌはホテルをみるついでに川のほうまで行き、クィーロン行きボートのオフィスにコンタクトしてきたという。
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