VOL.21 インド
マンガロールのペンタゴンホテルの話(葉月)
インドの都市はサイクリストにとったら、ちょっとした脅威だ。インド各地、やたら人口は多い。都市ともなると、その密度はさらに濃くなる。人口が多い、イコール交通量も多い。これはチキンレースが繰り広げられているナショナルハィウェイ上のワインディングロードをひた走り、うんざりしながらマンガロールに到着した時のことだ。
市内はやたら広くて交通量が多く、一方通行もあちこちにあり、なかなかめざすツーリストロッジにたどり着けない。この日のために、前夜ウドゥピーの本屋でマンガロール市街図なるものを手にいれておいたが、見れば見るほどアタマが痛くなってくるようなシロモノだった。ないよりマシか、ない方がマシか。
いつのまにか街の中心に突入してしまう。悪い事にその日は土曜日だった。昼過ぎのラッシュアワーを完璧にぶつかってしまった。地図を片手に交通整理の警官、新聞売り、ホテルのフロントマンに目指す場所を尋ねると、誰もが地図が間違っていると言う。大体地図を読めるインド人は少数派なので、彼らがどれ位真実を把握しているかは疑問なのだが、やっとのことで目的地にたどり着けば満室で、あらたに宿探しをしなければならない。
再び戦場のような道路に出るも、すっかり嫌気がさしてしまい、中心地から離れたスターホテルに直行してしまった。その名もペンタゴンホテル。レセプションで、 私たちは見目麗しいインド人スタッフに迎えられ、気分よくチェックインしたのだった。スターホテルといってもこのクラスだと空調は集中コントロールではなくて、 各部屋ごとにエアコンがとりつけてある。よってここではエアコンルームとノンエアコンルームという、二つのクラスが存在する。私達は当然ノンエアコンルームに泊まるが、さすがに広くて清潔な、ウエスタンスタイルの部屋だった。いう事なしの部屋ではあったけれど、ここのホテルのウリの一つのサテライトテレビの映りは、 いまイチだった。
シャワーを浴びてさっぱりして、いつもなら街へ探検に出かけるのだけれど、ホテル内のレストランに直行する。昼食時を過ぎた店内は閑散としている所か、客は 一人もいなかった。やる気のなさそうなウエイターが一人、私達を迎えてくれた。 メニューにはインドに来て初めてみかける西洋料理の数々が目についた。一抹の不安を感じながらもスパゲティナポリタンを注文。もう味、ボリュームについて何も覚えていないのだが、三泊したこのホテルのレストランで三回夕食をとっているの で、悪くはなかったのだろう。
昼、メニューでビールの値段をチェックしておき、夕食に備える。ゴアを出て以来、と言ってもほんの数日なのだが、アルコールが切れてしまい、精神的ストレスを開放するためには是非とも補給が必要だった。これは私達がアル中だという事ではなくて、日々チキンレースに巻き込まれるストレスを開放するのには必要だということなのだ。
キングフィッシャービール一本三〇ルピー。ゴアのパブリックバーで飲めば一本一五ルピー程だ。町場の食堂で三〇ルピーもだしたら二人でおなか一杯食べてもおつりが来る。が、そんな事を言っていたらストレスの解放はできない。「今日は特別」と二人で唱えながらビールを注文。するとおつまみにポテトチップがついてくるではないか!それもマサラ味ではなく、軽い塩味でビールのお供にぴったりの。
うれしいことにこのポテトチップスは食べ放題らしい。ポテトチップスの入ったバスケットが空になると、ウエイターがたっぷりと追加のチップスを盛ってくれた。 エアコン付きのホテルのレストランで、ムードも良くて、ポテトチップス付きのビールが一本たったの三〇ルピー。これはお得だ!とすっかり気分も良くなってレス トランの中を見渡してみると、どうだろう。昼間とは打って変わって、いかにも裕福そうな、美しく着飾った若いインド人のグループがあちこちでテーブルを囲んでいるではないか。女性は圧倒的に洋装が多い。まあまあ、と二人してキョロキョロする。いるわいるわ、金持ちモダンインド人のオンパレード。ここはまったく別世界だ。食後、私達はテレビを見るべくそそくさと部屋にひきあげ何気なく外をみると、ホテルの駐車場にはずらっとベンツやBMWがとまっていた。
ペンタゴンに滞在中、近所に安食堂がないのをいい事に、朝食はルームサービスを頼んでいた。メニューは毎度おなじみのミルクティーとイドゥリだが、ここで食べたイドゥリが今回の旅行中に食べたイドゥリの中で、一番私の口に合っていた。ココナツチャツネも繊細で上品で、これだけをスプーンで口に運んでしまったほど。 でも普段食べてる一ルピーのイドゥリーと比べたら、八ルピーもするここのは、もはやイドゥリじゃないか・・・
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