「旅行記」
トラベルメイト
監修・編集

リロとハツキの自転車旅行

 

VOL.22 インド
パヤンヌール の話(葉月)

 

どうってことはないのだが、印象に残る町がある。パヤンヌール。ケララ州北部の本当にどうという事のない地方都市だ。観光スポットでも、交通の要衝地という訳でもなく、自転車にでも乗っていないと、決して立ち寄る事のない町。乾燥した気候、スモッグ、ほこり、大気は土煙のヴェールでもかぶっているような感じだ。  

この町で私は初めて、大勢の黒いチャドル姿のモスリムの女性を見た。それ以前にももちろん見かけている。しかしこんなにたくさんの人を見たのは、初めてだ。 そういえば、町の中心にはモスクがあった。インドでは、モスクもモスリムも珍しいものではない。それでも黒いチャドル姿の女性群に、私は大きな違和感を感じた。もともとチャドルは実用的なものだったのだろう。黒は暑苦しいけれど光を通さないので、インドの強力な太陽の下でも、日除けには効果大だろうし、ほこりっぽい町を歩く時に、頭からすっぽり全身をチャドルでおおっておけば、髪も服も汚れないですむ。鼻も口もおおわれているから、マスクの役目も果たすのだろう。しかし、ただでさえほこりっぽい町が、よけいに暗く沈んで見える。ところが、この町の印象はすこぶる良いのだ。  

パヤンヌールでは、ドゥワラカツーリストホームというホテルに泊まった。カウンターでは、マネージャーが穏やかな表情で迎えてくれた。一泊ダブルで五五ルピーの宿だ。部屋は広く掃除が行き届いている。シャワー、トイレも清潔。ベッドシーツ、枕カバーも洗濯されてきちんとかけられている。各フロアごとに、客室係りとなる少年が配備され、この少年達が良くしつけられている。英語がイマイチ理解できないようだが、それでも一生懸命対応してくれるのが気持ち良い。風をひいて微熱のあった私も、すっかりうれしくなってしまった。  

インドでは、部屋に落ち着くなり、人が入れ替わり立ち代わりやってくることが 多い。ほとんどの場合、お茶やコーヒーの御用聞きか、自転車をかかえた変なツー リストに対する好奇心が抑えられなくて、ただただのぞきに来てしまう、という二つのパターンにあてはまる。この彼らの登場の仕方が、私達のストレス指数を一気に高めてくれるのだ。  

まず彼らは、部屋を覗けそうな場所から執ように覗きこみ、その後、こちらが反 応するまで、拳でドアをたたきまくる。ドアを開けようものなら、いきなり「ティーオアラコーヒー」とどなる。いらないと断っても「ティーオアラコーヒー」と繰り返す。「ティーオアラコーヒー」以外の英語は理解できないらしい。好奇心のみの場合は、なんとか部屋にもぐりこもうとする。彼らの正体は、ホテルの客室係、または近所の食堂の使いっ走り、どっちにしてもとんでもない事に変わりはない。 好奇心旺盛な輩の中で、私達のようなツーリストには、安らぎはない。

 

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