「旅行記」
トラベルメイト
監修・編集

リロとハツキの自転車旅行

 

VOL.20 インド

 

ゴカーランには良いビーチがある。カラングートのように大規模ではないが、こじんまりとしていてなかなか良い雰囲気だ。海岸線沿いに旅行していると、なぜかビーチで夕日を眺める事が多い。そうした習慣があるのは何も私達に限った事ではないようだ。このビーチにも、水平線の彼方に夕日が沈むのを今か今かと待ちかまえている旅行者が大勢いる。ある人はビーチをそぞろ歩きながら、またある人は海の中ではしゃぎながら。

インド人は着衣のまま海に入る。特に女性。あのサリーを着たまま、どんどん海へ入っていく。パンジャブドレスのまま、ジーンズのまま・・・。海からあがって濡れたままではさぞ気持ち悪かろう、寒くて風邪をひくのではないか、というのは私達の取り越し苦労で、彼女達はまったく気にする様子もない。  

もっとも気温が高くて乾燥した土地柄、髪や衣服が乾くのにたいして時間もかからないのだろう。最近はスイムスーツ姿の若いインド女性を見かける事もあるが、それはカラングートなどごくごく限られた場所で、進歩的、もしくは西洋かぶれした、ほんのひと握りの女性のみである。そのスイムスーツにしたところで、ハイレグやビキニなんてとんでもない。三〇年前の日本のスクール水着のようなものである。人前で肌をさらすことよりも、身体にぴったり貼りついた濡れたサリー姿の方がよっぽどタブーなのではないか、と私は思うのだが。  

水平線の彼方に夕日が沈むと、どこからともなく拍手が起こる。気がつけば自分もパチパチとやっている。はて、どうして人は日没をみると拍手をするのだろう。インドに限った事ではない。ツーリストの訪れる美しいビーチでは、よくある光景なのだ。陽が沈むと今度は空が鮮やかに染まってくる。何層にも数えられる茜色のグラデーション。やがて一番星をはっきりと確認できる暮色へと変わってゆく。  

雄大な自然のショーを見届けると、人は明るく、開放的な気分になるらしい。だから私達は日々変わりばえのしない日没ショーを見に、わざわざ出かけてしまうのだろうか。波打ち際ではしゃいでいる人達を眺めていると、私は若いインド女性に声をかけられた。 「写真をとらせてください」と言われたような気がしたので、「いいですよ」と言うと、あっという間に大勢の若い美形インド女性に囲まれて、「はいチーズ!」と シャッターが降りてしまった。聞けば彼女達は大学生で、カルナタカ州マンデーヤから来たのだそうだ。彼女達の身なりや物腰から判断すると、裕福で恵まれた階層の人達と思われる。それにしても屈託がなくて明るい。大学生にしては少々幼い気もするが。  

そんな事から、私は一〇年前にコナーラクであった写真屋のじいさんの事を思い出してしまった。太陽寺院を有するコナーラクは、ユネスコ指定世界遺産地域である。太陽寺院には、インド国内はもとより、世界中からツーリストが押しかけてくる。私達も押しかけた。偉大な遺跡を見学して、さてそろそろ帰ろうかというときに、写真屋のじいさんに、「記念写真はいかが」と声をかけられた。カメラをもっていた私達は、当然ことわった。  

一見彼はおとなしく引き下がったようだった。そして私達のそばにいた、インド人の観光客に声をかけた。「写真をとってあげよう、君のカメラで」そう、彼らもカメラをもっていた。じいさんは再び私達のところへ来ると何やらまくしたて、先のインド人ツーリストの隣にひぱっていった。あまりに見事なじいさんの一人芝居にあっけにとられていた私達四人は、不本意にも一つのフレームにおさまってしまった。  

じいさんは「じゃあもう一枚」といって、今度は自分のカメラを取り出してシャッターに指をかけた時に、インド人ツーリストがとびだして自分のカメラを取り返 して、何やらじいさんに罵声を浴びせ、そのまま去って行った。このじいさんに会うまで、インドで詐欺師まがいの物売りが寄ってくるのは、自分が外国人だからと思っていた。確かに利益率の高い外国人だけを狙うふらちな輩もいる。だがじいさんは、ビジネスチャンスを逃さないように、ありとあらゆる人に声をかけていたのだ。  

その後私達は、何回か見ず知らずのインド人に乞われて、一緒に写真をとられた。 彼らも旅にでて、気分が開放的になっていたのだろう。私は伊豆で外国人を見かけても、一緒に写真をとってくれ、などと頼みはしないだろうけれど。

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