VOL.19 インド・ゴカーランでのお話(葉月)
カルナタカ州ゴカーラン。ここはヒンドゥー教の聖地の一つで、インド人の巡礼はもとより、外国人ツーリストも多く訪れる町だ。聖地といえども、特別な産業もなく観光収入だけで成り立っているような町は旅人にとって、まず例外なく居心地の悪い所である。だが、ここは良かった。町の入り口で若い外国人ツーリストを上得意にするゲストハウスを見かけはしたけれど。
どんな町でもたいてい、ノンベジタリアンレストランがあり、町外れには魚や肉のマーケットがあるのだが、ゴカーランにはない。少なくとも私の目には入らなかった。私達の泊まったゲストハウスの向かいは食料品店で、インスタントヌードルも置いていたが、マサラ味ヌードルのみ。そう、ここはストリクトリーベジタリアンの町なのだ。この町で手に入る動物性食品は卵、ミルク、チーズ、ヨーグルト、 ギーのみ。
サイクリングをしていると、無性に動物性タンパク質が欲しくなることがある。 この場合の動物性タンパク質イコール獣肉なのである。私達の身体は、ゴカーランで動物性タンパクの補給を要求した。困った。ここはベジタリアンの町なのだ。
インド人は鍋、かま、ケロシンストーブを持って旅行する。ゲストハウスに泊まっても自炊は当然。キッチンのない部屋で料理をしたって、誰かに文句を言われる事もない。そうだ、私達も自炊をすれば良いのだ。匂いが部屋にこもらないように注意して。よーし、チキンラーメン、つくるぞー、卵をいれて!部屋の窓を全開にして、チキンラーメンをつくった。とてもおいしかった。が、チキンラーメンの空袋はさすがに捨てづらく、次の目的地まで持って行って捨てたのであった。
ゴカーランに到着した日の夕方、私達は例によって町を散策し、とある小さな食堂に入った。インドの食堂は、たいてい店先が売店になっていて、インディアンスウィート、キャンディー、スナック等を入れた大きなガラスびんをいくつも並べている。
大好物のラッシーを注文して、あたりを見渡すと、一人で水を飲みながら、スナックをつまんでは口にほうり込んでいる男性を何人か見かけた。スナックの内容は、 人によって少しずつ違う。そう、これはオリジナルブレンドなのだ。彼らは席に着くと、「コレとコレとコレを混ぜてね、そうこっちのピーナッツを多めにして、水も忘れないでね」という具合にオーダーしている。その図はさながら、日本のおとーさん方が、会社帰りに行きつけの飲み屋によって、ちょっと一杯ひっかけて、もしくはコーヒーショップでコーヒーをすすって、煙草でも一服して、さてと家にでも帰ろうかな、という趣なのだ。彼らにインタビューした訳ではないので、真相はわからないのだが、おとーさんの一服は万国共通なんだな、と変に納得してしまった。
ちなみにこのスナックは、ベビーラーメン状のもの、フライビーンズ状のもの、 素煎りピーナッツ、味付けピーナッツ、日本のおかき、あられ状のものと、種類は豊富だ。味はどれも微妙に違うが、大方マサラ味。時に油がまわってしまっていて体に良くないものをあるが、なかなか乙なものだ。この後しばらく、夕方のスナックをついばむ事が私達の習慣となってしまった事は、言うまでもない。
つぎへ→