ヌンチャクが届く
姉から返事が来て2週間ほどが経ったある日、日本から航空便が届きました。待ちに待ったヌンチャク30組です。次の日練習があったので道場に持ち込みました。当然のこと、皆大喜びです。「ブルース、リー」が映画で使っていた武器が目の前にあるのです。しかも、通販用のまがい物ではなく本場から直送の本物、早速この日からヌンチャクの練習が始まりました。
だいたいが地味な基礎練習の嫌いな人達です。以前から突きとか蹴り、受けの練習より組み手の方が好きな連中です。技も、初心者のくせに、跳び蹴りとか、後ろ回し蹴りのような派手なのを習いたい人達です。先生だから年上だからとそれだけで尊敬をしてくれません。強くなければいけません。それなりの迫力もなければ認めてくれません。
だからといって素直でない奴を生け贄にしてぼこぼこにすればいいかというとそういうわけにも行きません。道場に通ってくる人達は日常は普通の生活をしている人達です。武道で身を立てようとか、究極の道を究めようなどと言う人はいません。(今なら競技人口が格段に多いですから、才能ある人も多いし武道をきわめて生活の手段にすることも可能ですが。)
この辺りのかねあいがなかなか頭悩ますことでした。強さから行けば何年か後には歯が立たなくなるなと思える体格と才能持った生徒もいました。今のうちなら私らが日本で10年近く積んできた基礎練習の賜物が十分通用しました。それが練習でも相対したとき、相手への抑止力として働いて私らに歯が立たないわけです。もし恐怖とか怒りである一線越えた精神状態になったとき、これは付け入る隙もできますが、反面どう転ぶかわからない怖さも出てきます。
私がこの頃一番気をつけていたのは、強さを見せつけるより、隙を見せないことの方でした。強さ見せつけて怯えさせるより、隙を見せないで相手を冷静な状態に置いておく方がずーっと教えやすいのです。特に初心者へは。
ヌンチャクに関しては、全員が素人ですから一目見れば私との技術の差が簡単にわかります。これは空手本来の何も武器持たない突きとか蹴りなどの練習より教えるのがほんとに楽でした。
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