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「トラベルメイト98」
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【 旅行業で喰うひとびと(5) 】
*トホホの社員達*
すべての旅行会社の社員達がこんな人たちばかりと思ってはいけません。ただ無視するにはあまりにもすごい人たちだったので、エピソードに取り上げさせてもらいました。いろんな会社の人たちです、へたすると業界の人たちは、あいつのことを言ってるんだなと解る人がいるかもしれません。ですから話は少し変えてあります。やっぱすこしはまずいですから。
まず中田君(仮名)の話をしましょう。
その年はバブル真っ盛りのころで、求人雑誌に募集広告を出しても応募が全然ないころでした。パート2人に社員1人が必要でした、今までですと最低10人くらいの応募者から絞り込んで1人とか2人とかにしていくわけですが、世はあげて好景気の折り、3人必要なところへ3人しか応募がありません、2人は学生でしたから中畑氏は正社員要員と言うことです。履歴書をみると何回かは旅行会社で働いたことがあります、ちょっとずれてる感じはありましたが人数がいません、即採用です。
まあ一目見たらまず忘れられない個性の姿の持ち主でした。どう考えてもぜったもてるということからは、もっとも縁遠い人でした。身長は160センチ足らず、小太り、頭はおかっぱ、しかし妙に暗くなく、明るいと言うより、なんというか漫画のおぼちゃまん君のかわいらしさを抜いて陰干しにした、人間の干物のような人でした。ちょっとは不安を感じてはいたのですが、猫の手でも借りたい状況にぜいたくは言えません。試用期間中に色々覚えてもらえば少しは使えるかなと思うしかありませんでした。
来てもらってから2週間は無事すぎました、回りのものがほとんどマンツーマンに近い状態でチェックしていましたし、他のスタッフの補助だけをしてもらっていたこともありました。1カ月に近くなるとそろそろ自分で仕事をやってもらうことになります。コンピューターの打ち込みもまあまあ早く少しは使えるかなと思い始めたときでした。このころになると、お客さんに自分で予約の状況を正確に伝える仕事ができねばなりません。
中田「状況がいい形になってきてますので、そういう意味でもう少し待ってみて
ください。形としては決して悪くはありませんので。はい、はい、そうで
すね少々お待ちください。」
お客さんから何か聞かれたみたいで、先輩社員の押野さんへ向き直って
中田「4月28日の出発便まだ取れないかと言われてますがどう答えましょう
か。」
押野「今からもう回答が来るはずないから、出発1カ月前には動くからもうちょ
っと待ってと伝えてよ、案外直ぐ取れたりもするけども、毎年毎年状況は
違うから今はチャンスがないわけではないのでもう少し待ってくださいと
説明して。」
中田、お客さんに向かって
「今状況を、聞きましたら、決して形は悪くないので、そういう意味でも少
し形が変わるのを待ってください、はい、はい、えー、そうですね、あ、
あ、そういう意味でですか、そういう意味なら、よく解ります。そういう
意味でしたらもうちょっと待てばいい形になってくるかと思いますので少
々お待ちくださいじゃあそういうことで。」
多分、今スグには席は取れないけども、出発1カ月前になれば席の整理が少しは進んでチャンスがよくなるので、もう少しお待ちくださいと言いたいのじゃないかとは想像ができますが、それをシンプルに「そういう形」と「そういう意味」の二つの言葉で言いきってしまうすごさ、こいつはひょっとして天然のオオボケか、計算したボケなのか淡い期待を持ってしまいました。
押野「あのサー、中田さん、一応お客さんが納得してるみたいだから良いような
もののもっとわかりやすく説明した方がいいと思うけど、あんたは何でも
形でかたずけるけど、何の形なのか全然説明してないじゃない、喋る前に
よく頭の中を整理してから話を始めなよ。」
中田「あ、あ、そういう意味ならよく解ります、ええ。」
極端なことを言えば、そんなに複雑な手配でもない限り、問い合わせに対して棒読みでも良いから予約カードに書いてあることを読み上げておけば、当座はしのげます。
何週間かは中田大先生「形がそうなってないですから」にはじまって
途中何か質問を受けると「あ、あ、そういう意味ですか、そういう意味なら解ります」で相槌を打ち、
うまく行きそうだと思うと「形としてはいい形なので」
うまく行きそうもないと「形としてあまりよくないので」を続け
締めくくりは「じゃあそう言うことでまた」!!!!
自分で全部やらなければならなくなるにつれ、中田先生の形はどんどん内容のないものになっていきました。彼の頭はオウムの頭と同じで、会話がとぎれないようにオウム返しをしてるにすぎなかったのです。
「あ、あ、あ、そそう言う形なら意味はわかります。そう言う形でよろしくお願いします。形としてはよく解りますが、状況の形がよくありませんので、その辺の意味で形が少し変わるのを待っていただければ、もうちょっといい形で終わるとは思うのですが」益々形に冴えがでて、その辺の意味で形がいい方向へ代わったりするようになったりしました。
昼飯は、決まって近所のパン屋さんのサンドイッチ、飲み物はオレンジのパンピー500CC紙パック、決してコップを使わず、パックの片側をねじ切って口をとがらせてずずっと音をさせて飲む、もうたまんない人でした。でもとうとうお客さんから苦情が出始めました。
中田担当のお客さんほかのスタッフに
「あの中田さんね、何か説明はしてもらうんだけどどうもよく解らないんです。そのときは、状況の形が良くわっかたように思うのですが、電話切ってからなにか確か話はしたんだけども、なに話したかわからないもう一度説明お願いできますか」
何回も彼に注意しましたが、聞いて解る段階の人ではありませんでした、今目の前で起こってることを頭で抽象的に理解して相手に伝える能力が根本からない人だったのです。言葉は相手とのコミニケーションをただ続けるだけのものだったのです。当然複雑なことはまかせられませんし、単純なことでもどこまでが彼にとって単純なのか、これも判定するのが大変でした。結局よく解らないまま、数カ月で中田さんいなくなってしまいました。
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