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「トラベルメイト95」
  1. 【トラブルの後始末】

     団体旅行でも個人旅行でも短期でも長期でも、金持ち旅行でも貧乏旅行でも、旅行者の実力不足かあるいは不可抗力かは別としてトラブルは必ず起こります。それはそれで前もって用意はしておくべきではありますが、確率をゼロには出来ませんが少なくすることは出来ます。少なくする努力は常に続けていかなければなりません。何回でも旅行をしていくためには、また旅行を続けて行くにはトラブルは障害になります。自分で処理できるトラブルならまだ回りはそう迷惑を被りませんが、処理できなくなったときそして究極のトラブルになったときはもう大変です。

     パッケージなどの時は、トラブル処理費用が最初から入ってるわけではありませんが、ある程度の処理費用は考えざるをえないのでいったん事が起きても、添乗員とか現地のガイドとか現地代理店などが常識的な範囲で対応にはあたってくれます。常識的な範囲に入らなければ、追加費用を支払ってもらい新たな対応を用意してもらうことになります。十分かどうかは別として、ビジネスライクではあっても対応はしてもらえる係員はいるしシステムもあるのです。

     問題はです、個人旅行者の場合です。当然私たちは、今までよくある「個人、団体を問わず、一般旅行者はトラブルばかり起こしていて、現地の駐在員とか、大使館関係に迷惑ばかりかけることが多い。もっと色々学んでから旅行にでて欲しい、日本人の評判が下がる」と言う風な考えに賛成はしません。不可抗力のトラブルは本人にはどうしようもありませんし、旅行にでること自体トラブルは避けれないと思いますから、トラブルが起こることでそれ見たことか個人旅行者はと非難してもどうしようもないことなのです。

     ただしです、細心の注意を払ってやることをやった結果のトラブルは仕方がないことなのですが、この章で引用したようなやせ我慢と見栄と素直ではない考えによって(特に自分の実力を分かってないためのおごり)引き起こされた物はくだらないの一言です。これはみなから非難されるべきです。極端なことを言えば海外旅行にでる資格はありません。資格なんかなくとも、私のお金と手間で旅行に出かけるのだから、赤の他人がどうこう言うことはないと言われればそれまでですが、もし彼が個人旅行中に精神的にか肉体的にかどちらかの原因で(両方いっぺんに来ることもありますが)、自分で動くことが出来なくなったときのことを考えるとそうも言えません。

     個人旅行中の時は、ほとんどの場合回りに知っている人は居ないわけですから何か事が起こった時パッケージツアーの様にシステムとして誰かが緊急の行動と連絡を取ると言うことはないのです。回りにいる誰かが、この時は文字通りトラブルを起こした彼との距離が少しでも近い人が、迷惑を被ることになります。彼から二十メートル離れている人より十メートルの人が、十メートルの人より五メートルの人がかかわりたくなくとも、かかわってしまうことになります。はっきり言ってトラブルは本人自身が一番大変でしょうが、何の関係もない赤の他人には関係ないことです、かかわるのは絶対嫌なはずです。

     このあたりが中途半端なまま皆さん旅行に出かけています。理想とされることは、「困ってるときはお互い様ですから助けてあげるのが当然で、そういう善行を積んだときは無償の愛でやってあげなければならない。いつか自分に知らないうちその縁は返ってくる物です。」。こういう考えは本当に良いことです、助けられる側にとっては。

     確かに自然に人を助けてあげられる人はいます、でもものすごく少数だと思いませんか。それは理想ではありますし、そうしてあげれたら自分もどんなにか楽しいことは百も承知です。大多数の普通の旅行者が、いつも理想の行動が出来ると思いますか?実際は体を丸く小さく目立たないようにするか、後ずさりするか、凍り付いてからだが動かないかいずれにせよトラブルの起こった人は回りからは厄介もんです。

     トラブルになった人が友人、家族、知り合いならば、話は少しは違ってきます。かなりの人が、自然に助ける行動が出来るかも知れません。しかしここでも、あくまでかなりの人であって全部の人ではありません。ましてトラブルになった人が赤の他人なら、周りの人は絶対喜んで助けてくれてはいません。顔はにこにこ笑っていて「大丈夫ですよお互い様ですから」と言ってくれていてもです。トラブルにはまっていないあなたの方がどんな陰険な奴であっても数十倍いい人であるに決まっています。

     私ら二十四人は、大体考えうる限りのトラブルを誰かがやってきました。ほとんどの場合自分で切り抜けたと言うより、運良く誰かに助けてもらったことの方が非常に多いのです。最近でほとんどのメンバーが、自分でトラブルを切り抜けたから今自分があるなんて思えなくなってきました。今旅慣れした自分があるのは、ただの偶然で何の理由もない、どうしても理由を付けるとすればさいころの目がいい方に転がっただけで、旅行を何十回繰り返して今あるのは運がいいとしかいいようのないことです。そういう私たちが、助けてもらった事実を認めた上で相手は嫌々自分を助けてくれていたなんて思うのはとんでも無いことなのでしょうが、はっきり言って特に赤の他人のトラブル処理は面白くはありません。だから嫌々ながらも助けてくれた、沢山の赤の他人の人達に私たちは感謝しています。

     嫌々ながらも助けてくれるこの行為を何と言っていいのか分かりませんが、長期の特に個人旅行をしている人達はある時期あなたがこの世に存在するだけで回りに良いことを一つも起こしてないことに気付く瞬間があります。それは、実際重い病気に侵されたときかも知れませんし、大怪我をして旅行保険にも入ってないときかも知れませんし、気分が落ち込んで回りはそうは思ってないのに自分だけがそう思っている時かも知れません。そう言うときは、一言で言えば「いない方がよかったのに」。事実そうです。そんなとき「どんな人にも何かの価値はあるのだから」などと慰めを言ってくれる人もいますが、これは大嘘です。あなたには回りの赤の他人にはこれっぽっちの価値もなく、それ以上にトラブルを持ったあなたは、はっきり言っていない方がいいのです。

     なのになんで嫌々ながらも助けてくれる人がいるのか、はっきりは分かりません。一口で言えば「しょうがねーな」、これにつきます。(もちろん運が悪い人は誰も助けてくれなくて、そのまま最悪の結果になることもよくあります、この差は紙一重です)多分、多分としか言えませんが、いない方がいいあなたの姿は、助けてくれる人の数年前の姿だったかも知れませんし、数カ月前の姿だったのかも知れません。それがあるから、嫌々ながら助けてくれるのです。それをふまえた上で海外旅行はすべきです。

     人に迷惑をかけないような旅行なら何でも良いなどと不遜な考えは捨ててください。人に迷惑をかけない旅行なんてホンの短期間で一回限りでなければこの世に存在しません。むしろ旅行を続ければ続けるだけ、自分が迷惑をかけていると同時に相手も迷惑をかけてきます。自分が相手にかける迷惑は、ほとんどの人が気がつかないか少な目に見積もります。相手がかける迷惑はホンの小さな事でも数倍に増幅されてずしんとこたえます。そういう面から言って、この「アジアンジャパニーズ」の、ー地図とカメラーの章は防げるトラブルを自分で大きくしていながら運が良くて何も結局起こらなかったのを幸いに、何の次につなげる反省も熟考もない、そのうえ本の最後にも、簡単に「二十二才のまま走り抜けるように逝ってしまった、インドで分かれたままの、二つ年下の彼がいる気がした」なんて簡単に書いてくれてますが、「逝ってしまう」と言うことはこんなさらっと一言でかたずけるにはあまりにも大きな出来事です。

     シュミレーションしたように、この著者の小林青年が重傷または、逝ってしまうトラブルになる可能性は非常に大でした。そうなった時「しょうがないな」で後始末に動く旅行者、旅行会社、タイの警察、病院、あるいは一応後始末も仕事の一つになってる日本の公官庁、旅行保険会社何人の手と時間がかかるのでしょう。

     どんな目立たないおとなしい、影の薄い人でも、海外で重体になるか(出来たら一目で大変さがよく分かる怪我のほうがより効果的)、逝っちゃいますと、とたんにいきいきと自分がいることの主張をはじめます。これは本人が自覚するしないは別で、日本人がそうなってると言うだけでほとんどの国でちょっとした騒ぎにはなるでしょう。文字どおり地獄の沙汰も金次第の海外旅行版です。(一般的に国力の大きいとされている国の国民の方が、大げさに大切に取り扱ってもらえる可能性が大です。)トラブルのない時の旅行者は、単に個人的な旅行をすることは出来ますが、いったん半端ではないトラブルになると旅行者はとたんに公的な存在になります。このあたりを一つも考えに入れてない旅行関係の本が多すぎます。

     ほ乳類は動脈のシステムでエネルギーを体の隅々まで行き渡らせますが、同時に体の末端からかえってくる老廃物を溶かしこんだ血液は、静脈のシステムによって心臓部の方へ戻ってきます。もうすべての旅行関連の特にガイドブックっぽいドキュメンタリーとかハウツウ物は、動脈の部分の解説と、その結果生じる副産物の体験は詳しく、おもしろおかしく語られますが、同時に存在する静脈システムの方の解説と体験はほとんど語られません。この部分を少しでも念頭に入れていたら、−地図とカメラ−の様なアホなエピソードを本の頭に持っていくこともなかったでしょう。

     何十回も繰り返させてもらいますが、不可抗力なトラブルは仕方ありませんが、避けられるトラブルなら徹底的に避けてください。公的な存在になってしまった、赤の他人に、「しかたなく」かかわっていくことには少し疲れてきました。当然ながら毎日事件は起こっているわけではありませんが、年に一回はかなり危ない話が回ってきます。二十四人いますと必ず半年に一回くらいは、同じ様な原因の事件が、同じ様な状況で起こるのに誰かが遭遇しています。

     突然入ってくるFAX「URGENT,YOUR CUSTMER ,MR.TANAKA,WAS TAKEN FOR HEAD PERATION IN ABC HOSPITAL」

     田中さんがABC病院で、頭のペレイションを受けたことはよく分かります。多分大変なことなのでしょう。でも頭のペレイションて何なのでしょう。辞書を探しても,PERATIONなんて単語ありません。ヘッドペレイション、ヘッドペレイション。そうだ、ヘッドオペレイションだ。頭の手術なら話が分かります、多分急いでタイプを打ったため[O]の文字が抜けたのです。その後も延々と難しい単語が並びます。辞書を引く度段々気が滅入ってきます。「右側面頬骨陥没、鎖骨骨折、左上腕部骨折、腹部内出血、左大腿骨。。。。」

    WWWWUA〜〜!!!

     電話も突然入ってきます、正月休みが終わって最初の出勤日「弟が死んだ、さっき外務省から電話があった。旅行会社なのにあんたんとこからは何にも挨拶なしかよ。電話があってからもう二時間経ってるぞ、無責任じゃないか、冗談じゃないぞ。ただじゃ済ませないぞ、ええ〜!」

     旅行会社社員鈴木「それは誠に、お悔やみ申し上げます、申し訳ありませんが、当方でも確認を取ってみますので弟さんのお名前は何とおっしゃるのでしょう。」

     「こら、いい加減にしろよ、弟の名前もわからんのか、おまえの所で行ったお客だろう、冗談よせよ。ええ〜!」

     ええ〜!と言われても、突然の電話で相手は自分が誰だか名乗ってもいません。事故がどこでどういう風に起こったのかも聞いていません。

     鈴木「誠に申し訳ありません、当方にはまだ外務省から何の連絡も来ていませんので、至急動きますのでその弟さんのお名前を頂戴できますか」

     「お名前を頂戴だと、たいがいにせーよ、こっちから電話が行くより前におまえの所がうごかなきゃいけないことだろう、もう弟は死んでんだぞ、今更動いてどうなるじゃ。ええ〜!」

     なら電話すんなよ、とも言えませんので鈴木さん「いやー申し訳ありません、とにかく直ぐあらゆる手だてをうちますんで、お名前だけでもないと、申し訳ありませんが」

     「飯田て言うんだよ、飯田政夫(仮名)ぐぐ、この野郎ただじゃ済まさないぞ、ううう、どうするか直ぐ電話よこせよ、弟はXX国で死んだんだよ、そんなことさえおまえの所は知らなかったのか」

     鈴木「分かりました直ぐ調べまして、ご連絡させていただきます、十分待ってください、十分だけですから」
     電話を切った後事務所はパニックです、十二月にXXに行った飯田さんを探さなければ行けません。年末XX国に行った人はかなりいますが飯田さんはいません。東京だけでなく他の支店にもあたってみます。やはりいません。かろうじて名古屋支店の手配で一人飯田さんはいましたが、XXではなくアメリカ旅行の人です。

     お客さんのカードが社内でなくなっていることも可能性としてはありますが、どうも原因が分かりません。外務省にかけて確認をすることにしました。その結果少し話が見えてきました。確かに飯田さんという人がXXで事故にあって死亡した、しかし事故にあったのは一人ではなく、松田(仮名)さんという人も一緒でその人は、軽症でB病院に入院している。松田さんなら十二月二十五日発一月七日帰りで、航空券だけの手配をしています。かいもく見当がつきませんので、知り合いのXX国の旅行代理店のスタッフをB病院に派遣松田さんに話を聞いてもらうことにしました。

     その結果今回の事故のあらすじが見えてきました。松田さんは航空券だけでXX旅行に出かけたのですが飯田さんは他の会社のパッケージツアーでほぼ同じ時期に旅行に出かけたそうです。飯田さん自由行動中に松田さんと意気投合その日の夜おきまりのアバンチュールを求めて街へ繰り出しました。そこでポンビキともめ事を起こし、はり倒したまでは良いのですがすぐ仲間が集まり逆に追いつめられてしまいました。松田さんはうまく逃げたのですが、飯田さんは逃げ遅れて袋叩きになり数時間後路上で倒れているところを発見され、病院に運ばれたけどもそのまま死亡、警察とか大使館の事情聴取も松田さんが応対したため(まあ、松田さんしか応対できませんが)松田さんの利用した旅行会社が飯田さんの方へも伝わった様です。これだけ調べるのに五時間かかりました。

     その前に松田さんの名前がでてきた時点で、すぐ飯田さんは多分鈴木さんの会社が手配した人ではないと伝えておきました。この時も一悶着ありました、謝りに直ぐこっちへ来い、責任はどうとるんだの一点張り、多分うちで手配していないと伝えるだけでもかなりの時間がかかりました。こちらの話を聞いてもらえないのです。

     次の日になってやっと飯田さんが使った旅行会社が判明、飯田さんに伝えようと連絡をすると、「そんなことは昨日のうちに相手の旅行会社から連絡が入ってる、あんたの所は遅い」ガチャ。
     そりゃないですよ、昨日のうちに分かっていたのなら直ぐ連絡をくれれば、こちらも無駄に時間を使わなくても済んだのに、その後さすがに飯田さんからは鈴木さんの会社へは苦情の電話は来なくなったそうですが。

     旅行のライターをしているNO。九の人は、新婚旅行を兼ねた取材旅行でヨーロッパへ行くとき、息子の所へ旅行をかねて行くというおばあさんの世話を頼まれてしまいました。たまたま格安航空券のカウンターで同じ列に並んでチェックインしたときに、見送りの人から頼まれてしまったのです。もし現地に着いたとき出迎えが来てなければ、息子の所へ電話してもらえばいい、奥さんは日本語がしゃべれるから空港のどこにいるかを伝えてもらえばと言うことでした。それなら簡単と安請負してしまいました。席も近くが良いだろうと言うことでNO。九夫妻のとなりがあいていたので、そのおばあさんは隣に座りました。これが、災難の始まりだったのです。

     悪気がないことは分かります、決して悪人でないことも認めます、でも延々長男の嫁の悪口と、パリに住むフランス人の奥さんをもらった次男のエリートぶりの自慢を続けられた日にはたまりません。せっかく二人でのんびり飛行機の旅を楽しもうと思っていたのに。しかも、途中から気分が悪くなったとかで食事も食べなくなり、隣でビニール袋を握りしめ横になりっぱなしです。食事の時になるとそのにおいでよけい気分が悪くなるらしくて、ビニール袋を使う回数が増えます。たまんないです、他の席に移動するわけにも行かず、気分の悪い母親を看病しながらパリに向かう若夫婦を演じるしかありません。気のいいカップルなんでこれ以上のことは聞けませんでしたが、普通絶対いやです。彼らは一言「うーん、でもしょうがないね、隣に座っちゃたんだから」

     この様にトラブルの後始末は、トラブルを起こした張本人以上に周りの人が大変なのです。特にその時周りにいた赤の他人は何の関係がなくとも、とばっちりを受けてしまいます。避けられる物は、最大の努力を払って避けてください。どうしても避けられなかった物は、周りの者が何とかしてくれるかも知れません。もし何とかしようとしてくれる人が現れたらあなたは本当に幸運です。常にそれは割に合わない仕事だからです。そして考えうる限りの感謝をしてください、そうしたとしても私たちの経験からすると、初心者のころほど不十分な感謝しかしていませんでした。心の底では、もっとちゃんとしてもらう権利が私にはあると思っていたようです。

     同じ日本人だから赤の他人をせわしなければいけない義務何かありません。旅行者同士だからお互い助け合わなければならない義務もありません。貧乏一人旅で自分探しをしているから助けられるべき権利があるわけでもありません。

     助けられてそれなりの感謝が出来るようになるまで、私たちはなかなか時間がかかりました。二十四人は一応上級者に入ってると思いますが、まだまだこれだと言う事が助けるときも、助けられるときも、助けないでほっておくときも、満足できるようには出来ません。

     袖擦り合うのも何とかで、気分が乗ったらお互い助け合いましょう、気分が乗らなければそれはそれで良いのかも知れません。トラブルに関してはもっともっと時間とページが必要です。詳しくはあなたが旅行から帰ってきてからお話を続けましょう。まだまだトラベルメイトは続きます、そうですね次回は六十年代後半から七十年代前半にかけて何にも知らずにただ海外に行けば夢がある少なくとも日本より良いと単純に考えて旅行を続けた、いわゆる「無銭旅行者」と呼ばれた人達を呼び戻して、彼らの面白て、やがて悲しき出来事を語ってもらいましょう。

     ま、何にせよ、もう出発時間ですそれではお気をつけて、行ってらっしゃい。

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