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1960年代後半よりたくさんの旅行者が海外に出かけていきました。「貧乏
旅行」より「無銭旅行」がポピュラーだった時代です。もちろんまだ「自由
旅行」などという言葉はありませんでした。
日本がまだ貧しかった時、「70年万国博覧会」でお金貯めて、インドへ向
かった青年の旅行記です。
<マガジンサンプル>
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「田森くんは西へ」
1970年初めの頃の普通の青年の、普通なインド旅行記。
淡々と時は流れていきます。
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田森くんは西へ(1)
私が海外旅行に出かけたのは、1971年の2月のことでした。なぜ海外旅行
に出かけたかと言えば一言ではいえません。今から30年近く前のこの頃はイン
ドに個人旅行するだけで探検冒険の2文字がついてきた時です。私は元来そう国
際派ではありませんでした。むしろ漫画と、日本橋通いの電気好きのローカルな
マニアでした。
きっかけは1970年の万国博覧会でした。ちょうど日本が国際的に認められ
つつあるときの博覧会でしたから、そりゃあ、にぎやかなものでした。関西一円
の学生はこぞってここでアルバイトをしました。ちょうど、東京の多摩地区の多
摩ニュータウンのように、大阪郊外の千里丘陵はニュータウン開発と万博で大変
貌を遂げた頃です。
通常アルバイト料は、軽作業で一日800円から900円、肉体労働とか夜勤
で1200円から1500円くらいでした。部屋代は、三畳一間で3500円か
ら4000円、駅の近くで日当たりがいいとこだと、4000円から5000円
くらいでした。この頃の私達の生活は、「石井ひさいち」書くところの「東淀川
大学」の学生生活そのものでした。彼の漫画で出てくる「山田」と言う地名は千
里丘陵のへんぴな所の地名です。(今も辺鄙かどうかは知りませんが)
万博会場のアルバイトは、平均で昼間の仕事で日給1500円くらいだったよ
うに思います。友人でも商売気のある奴は歩合制の、アルバム売りとかバッチ売
りで稼ぎまくっていました。私はそう商才のある方ではありませんでしたので、
万博中央駅の駅員のアルバイトです。駅が営業開始する前から万博が終わるまで
しつこくいましたからほぼ半年は続けてアルバイトしていたようです。1970
年の2月から、8月か9月までいたわけです。
ここの体験は海外どころか国内の学生生活以外の広い世界を体験するきっかけ
になりました。これがなければ、お金の面でも精神的にも海外旅行どころではな
かったように思います。実際知り合い、友人の間でも万博をきっかけに海外旅行
に出かける人が関西では急に増えました。それまでヨーロッパでもアメリカでも
「あ、どうも」と言う人より「どないでっか」と言う人が急に増えたそうです。
半年間の間には色々なことがありました。のべ何百万人(何千万人かな)集ま
ってお祭りです、人間の生活で全て起こりうることが起きます。酔っぱらいとか、
変なおじさんは一週間に何回か駅員に絡んできます。家庭に何か事故があったこ
とを告げる会場の呼び出し「神戸市からお越しの、田森正治様(本当に田森正治
さんおられましたらごめんなさい、仮名ですので)、神戸市からお越しの田森正
治様ご家庭に御不幸がありましたので至急ご自宅までご連絡ください。」「神戸
市からお越しの......」(この頃の呼び出しは確かご家庭に不幸がと放送
していたように記憶してます。)、月の内最低でも2,3回はそう言う放送があ
りました。
幸運なことに私がアルバイトしていた駅では電車の死亡事故とか飛び込みはあ
りませんでしたが、ホームから見える道路でのタクシーとバイクの出会い頭の衝
突事故はありました。
キキーというタイヤのきしむ音と、グァシャとバイクとタクシーの衝突のとき
の音、スローモーションのように空中に跳ね上げられて飛んでいくバイクのライ
ダー。そして道路にたたきつけられたときの、ヘルメットの鈍い音。何回か体は
道路でバウンドして、道の上を滑っていきます。
やっと体が止まると、足とか手は普通ではあり得ない方向を向いています。ヘ
ルメットの回りには見る見るうちに水たまりが出来てきます。ちょうど彼か止ま
ったところはガード下で薄暗く下はアスファルト塗装のため液体の色までは判別
できません。
駅のホームも、道路も一瞬にして時間が止まり、耳鳴りのような「ピーーン」
と言う音しか聞こえません。再び音が聞こえだしたのは、タクシーのドアを乱暴
に閉めた「ドン」と言う音でした。
お祭りですから、こんな不幸なことばかりではありません。ほとんどの時間と
ほとんどの人はアドレナリンの過剰分泌による躁状態でした。お祭りは永遠に続
くように思われました。
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「田森くんは西へ」
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