第7回 インフォームド コンセント (2001/12/31)
入院して1週間。一昨日インフォームドコンセント、つまり病状説明とこれからの治療計画の説明をうけた。
一般の商業活動において、何かにお金や時間を投入するのは、当然何らかの見返りリターンを求めてのことである。この点、医療を受ける患者の場合も変わらない。病気の治癒を期待してお金を払う。場合によっては失職や減給など社会的、経済的にも大きなダメージも覚悟しなければならない。
商品やサービスを購入する場合、その商品や類似品の性能や価格などを調べて比較するのは当たり前だ。医療も一種のサービスだから、いろいろな選択肢の中から自分の希望する治療を選べる、というのが建前ではないかと思う。
しかし、病気の治療の場合は商品の購入ほど単純でないことも明らかだ。医学的に高度に専門家され、さまざまな要因が複雑にからみあう治療方法を素人の患者が検討比較するのは不可能だ。例えすべての検査データやカルテを見せられたところでそれを解釈すらできない。
普通は患者は医者の薦める治療方法に従う。というよりはそもそも患者にとっては病院を選ぶくらいしか選択肢はない。医者は善意で最善の治療法を提示してくれるのだから、それを拒むのは難しい。病状や治療方針を説明され同意を求められればうなずくしかない。
近年、インフォームド・コンセントが提唱され普及してきた。患者は何もきかず黙って医者のいうことを聞いていればいいのだ、という時代は過ぎ、医者は患者に説明責任があるという考えが一般化した。この背景には医療技術の高度化による費用の高額化、病院の競争、医療ミス裁判などがある。患者、医師、病院それぞれにとって事前の意志疎通があれば無用なトラブルは避けることが
できる。
午後3時から病状の説明をするというので会議室にいった。そこには主任医師と担当医師のほか経理の人、相談係りの人など5人ほどが待機していた。そのほが看護婦さんも付き添ってくれていた。最初は裁判所の被告のような気分だった。
医師の病状説明と今後に必要な治療に関する説明は明確で、十分納得できるものだった。これからの治療における選択肢も示され、どれが最善かを詳しく解説してくれた。自分が現在、施されている治療と方針がよく理解できた。長期の入院もそれが最善の選択肢であることが納得できた。
また、こちらからは、これまで自分の生きてきた背景や考えかた、医療体験などを話した。直接医療と関係のない話題にも及んだ。医師が病状を知るのは当然だが、患者としてみれば病気だけで
はなく自分をすこしでも知ってもらいたい。その願いも叶えられ、会議室を出るときとても安堵を覚えた。
今回のインフォームド・コンセントは、自分から詳しい話を聞きたいという申し出で特別に配慮して設定してくれたものだった。医師2人をはじめスタッフの方々を1時間半もつきあわせたのだから、これは特段の例外対応といってもいい。とてもありがたいことだ。
スタッフの皆さんがこれほどまでに自分を支えてくれていることを思うと涙がでてきた。
社会的には同意したことと納得したことは同じこととみなされる。
しかし、同意したことと積極的に納得したこととは違うのではないか。本来、納得というのはきわめて個人的なことであって、例え科学的に客観的な資料をもとにしたって人それぞれで、とらえ方
は異なる。ましては人には人生のなかで形成されてきた価値観や思想がある。宗教もある。
どんなにインフォームド・コンセントをやってもやはり埋められない部分は残る。患者とすればあらゆることが知りたいのだ。単に医学的な知識だけではなく、同じ病気に苦しむほかの人のこと、
病気を克服した話、薬のこと、家庭での療法にどう取り組むか、毎日の食事、記録などなど。
ベッドにインターネットの常時接続環境があったらと思う。現在は、公衆電話にパソコンをモデム接続しメールの送受信を行うのがせいぜいだ。電話を長時間占有するわけにもいかず、HPの閲覧はできない。WWWができれば調べたいことがいっぱいある。インフォームド・コンセントの歴史、病気と治療法のデータベース、抗生剤など薬品のデータベース、どんな医療器具があるか、点滴の器具や体温計、しびん、ベッドの発達や歴史、国による医療制度の違い。
インターネットと医療というとすぐに遠隔医療など技術的な話題になってしまいがちだが、ベッドに横たわる患者の情報収集と情報交換にもとても役にたつ。インターネットのリアルタイム性は社会の中で自分が本当に生きていることを実感させてくれる。病気に対する勇気も湧いてくる。
インフォームド・コンセントによる当事者間の意思疎通とインターネットによる第三者からの情報取得は、患者にとって相互補完的であるように思える。患者が第三者にアクセスしていろいろな
見解を調べることは、医師にしてみれば自分が信用されていない気分になるかもしれないが、患者の納得が深まれば信頼も増すに違いない。
それにしてもベッドで寝ながらパソコンを操作するのはつらい。
どうにかしてくれ。
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