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トラベルメイトトラベルメイト95

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「トラベルメイト95」
  1. 【何でもありません、何でも。】

     まだ国際線が羽田にあったころの話です。数社が合同でインドへの団体を企画しました。最終的に五十人ほどが集まりました。安くあげるため航空券はバンコック経由で行きと帰りに乗り継ぎのため一泊ずつの日程でした。四週間ほどの日程を無事終わって全員が無事故で羽田に帰ってきました。

     各自ターンテーブルに出てきた機内預けの荷物をもって税関の検査の方へ進みました。メンバーの一人の、山田さん(仮名)の番になりました。簡単な二、三の質問と荷物の検査が終わり本人の受け答えもスムーズなので検査官は、「免税範囲のものしか荷物の中には入ってませんよね」と質問しながら次の人を呼ぼうとひょいと山田さんのシャツのポケットを見ますと、ポケットの中から雑草の花の部分を乾燥させ糸で巻いたようなものが顔を出しています。

     これは見る人が見れば解るブッダスティックと言う大麻の銘柄の一つです。

     検査官「それなんですか、そのポケットの中のもの」

     山田さん「え、え、え、何でもありません、これは何でもありません」

    ポケットを片手で押さえながら、山田さん後ずさりを始めました。こうなると検査官も黙ってはいません。

     検査官「君!待ちたまえ。」

     山田さん「ホント何でもないです、何でもないですよ」

     山田さん、片手でポケットを押さえながら検査官の脇をすり抜け「何でもないです」のいろいろのバージョンを使い分けながら羽田の税関検査場の中を逃げ回りました。

     逃げ回ったと言っても狭い羽田の検査場の中、しかも数人の検査官に追いかけられたんでは逃げようがありません。直ぐ取り押さえられてしまいました。

     検査官「これは何かねこれは」

     山田さん「何でしょうね、あれおかしいな何でポケットに入っていたんだろう」

     検査官「これは君のものだろう、何かねこれは」

     山田さん「これは私のものと言うよりも、エーおかしいな」

     検査官「ちっともおかしくない、これは何か解ってるのかね」

     山田さん「いやー、あのうどうでしょうか」

     検査官「ちょっとお聞きしたいことがあるのでこちらへ来てください」

     山田さん案外こうみえても、挨拶だけはきちんとする人でした、回りの旅行のメンバーの顔見知りに、

     山田さん「皆さんと一緒には出れなくなりました、旅行中はお世話になりました、中村さんありがとう、山本さん後でまたおごります」

     中村って俺のことかと中村言い、山本って誰のことかよ山田さん

     周りの人皆後ろを向くか、無視するか、遠くのカウンターにゆっくり歩いていくか、山田さんの回りは真空地帯ができあがりました。(長期旅行者の間では、危ないものは荷物に入れておくより案外シャツのポケットに無雑作に入れておいた方が見つからないと言う神話がありました)

     最後の最後までトラブルはないように旅行しなければなりません。旅行中絶対にすべてのことにおいて清廉潔白で無ければならないとは言いませんが、旅行中の何とかなる状態のハイな気分のまま危ないものを持って帰ってはなりません。旅の垢と恥は、機内での睡眠中に、あるいは機内泊のない日程ならば窓から日本の山々が見えてきたときゆっくり捨ててきてください。

     空港の入国手続き、税関手続きもすべて終わった、後は自宅に帰るばかりです。車での出迎えかタクシーで帰るのでも無い限り荷物が肩に食い込みます。どうしても今日持ち帰らないといけないお土産などを除いて汚れた服とか洗面用具などスグに入らないものは、宅急便のカウンターから別便で送りましょう。もしバスとか列車の時間まで余裕が有れば、千三百円のスパゲッティミートソースを食べても良いかもしれません。その値段とあまりの量の少なさに「ああ、私は日本へ帰ってきたんだ」と実感するに違い有りません。

     本当に最後の最後自宅の窓が見えてきました。デジャブを感じたように妙に空気がなつかしい。

    後十歩で玄関です、今回は無事帰ってこれました、今日の夕御飯はたぶん極楽飯です。後五歩で玄関です。海外旅行保険の、傷害死亡、疾病を使える最後のチャンスも後五歩で終わりです。立ち止まって回りをもう一度見渡してください。もう保険を使うチャンスはないですね、残念ですが今回は保険は掛け捨てです。玄関のドアを開けてください。

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