●ヒッチハイクのスタイル

ヒッチハイクにはいくつかのスタイルがある。もちろん厳密な定義などあるはずもないが、大別すれば三つのスタイルに分けられる。

最もオーソドックスな方法は親指を立て走っている車にヒッチのサインを送るやりかたで古くから行われてきた。これに対してドライブインなどて停車している車に頼み込んで乗せてもらう方法がノックハイだ。さらに60年代後半からは行先を看板に書きサインを送るボードハイが広まった。

どのスタイルをとるかはヒッチハイクをどのように考えどのように楽しむかといったことに関係しているように思う。筆者はノックハイやボードハイはやらない。それはヒッチハイクを単なる移動の手段とは考えていないからだ。移動手段だけならばノックハイやボードハイで早く目的地に到達するほうがよいかもしれない。

しかしヒッチハイクの面白さや辛さはヒッチしている時にこそ味わうことができるものだ。一発で行くことばかりをねらってヒッチの回数を少なくすれば移動は楽だが楽しみはそのぶん減ってしまう。寄り道をすることもなくなるし、いろんな種類の車にも乗れない。いろいろな人にも出会うこともなくなる。またなによりも道路にたってヒッチする楽しみ自体が少なくなってしまう。

ヒッチハイクそのものを楽しもうとするヒッチハイカーには親指だけのスタイルが最もふさわしい気がする。


●ヒッチの効率

ヒッチハイクをしていると効率はどのくらいかとよく尋ねられる。そんな時いつも「100%です」と答えることにしている。相手は何台に一台とまるかを聞いていることは分かっているがあえてそう答える。千台に一台にしろ一万台に一台にしろとにかく停まってくれる車がありかならず目的地には到達できるという意味で100%なのだ。

自分はヒッチハイクからいろいろなことを学んだが、ともかくサインを出し続けていればいつかは目的に達することができると教えられたことが一番大きい。ちょっとヒッチしてみて停まらないからやめてしまったという人がいる。効率ばかり考えてすぐにあきらめてしまえば何事も成就しない。なにごとも意思を示し続けることが大切なのだ。

実際のところ、場所がよければだいたい30分くらいで誰かが停まってくれる。今回の旅での最長でも4時間くらいのものだ。長時間待ったせいで思わぬ人に出会えたり、乗り継ぎがうまくいってかえって早く着いたりすることもめずらしくない。このあたりはヒッチハイクの不思議で最もおもしろいところだ。

結局ヒッチハイクに効率なんて関係ないのだ。


●親切な人だけに出会える

道の片隅でさりげなくヒッチしていると、ほとんどの車は気にもとめずに過ぎていく。気付いても絶対のせないという感じの人もいるし、時には罵声をあびせていく人すらいる。そうしたなかで本当に親切な人だけがとまってくれる。運転している人もこちらをみて選んでいるわけだが、こちらからすれば結果的に親切な人だけを選んでいることになる。

こうした意味からして無理に車を止めたりノックハイしたりするのはあまり好ましいとはいえない。前方だけ見てこちらに気付かないような運転手ではなく、回りにも気を配りながら安全運転している親切な人だけを待とうという気持ちがヒッチハイクには大切だ。


●ヒッチハイクは結構お金がかかる

ヒッチハイク=無銭旅行と思っている人が結構いる。移動にお金がかからないから確かにそうした面もあるし、タダで行く目的だけでヒッチする人もいるかもしれない。しかし実際にヒッチハイクで旅をしてみるとそれなりにお金がかかるものだ。若さにまかせて毎日野宿でもできれば別かもしれないが、今回のように親子ペアともなればたまにはホテルで息をつかなければならないしグルメの楽しみも捨て難い。

沖縄から北海道に行くだけならたぶんホテル込みのパック旅行が一番費用がかからないだろう。車を使えばガソリン代はかかるかもしれないが中で寝ればホテル代はかからない。ヒッチハイクは予定が立たないからホテルを予約することはできない。でたとこ勝負で安ホテルがあればよいがいつもうまく当たるとは限らない。移動に時間がかかるぶん宿泊数もふえるし、二人ならホテル代も二倍になる。結局ヒッチハイクが最も費用がかかることだってある。


●初心者のためのアドバイス

ヒッチハイク自体のやり方は簡単だ。親指を立ててサインを送ればいい。しかしいくつか注意しておいたほうがよいこともある。

まず格好だがヒッチハイクしているという雰囲気が必要だ。まさかスーツにアタッシュケースではさまにならない。ラフな服にリュックがいい。あまり大きな荷物は迷惑だ。夜は安全のためにも白いシャツか上着が必須。寒い時期のジャンパーの色選びは大切だ。リュックも目立つ色を。雨のことを考えて折りたたみ傘を用意しておいたほうがよい。またよい場所を求めてかなり歩くことも多いので歩きやすい靴を。小型の双眼鏡があると遠くの標識などの確認に便利だ。

知らないところに行く場合は地図が絶対必要だ。それもできるかぎり詳しいものがいい。ラフな地図を頼りに近いと思って歩いたら何時間もかかってしまうこともよくある。自動車地図には鉄道路線が適当にかかれているものもあるが、ヒッチハイクでは最後の手段として鉄道に頼ることもあるので鉄道駅がきちんと掲載されているもののほうがよい。

ヒッチする場所は車が停車しやすいところを選ぼう。バス停やパーキングのくぼみとかがあればベストだ。夜は明るい所で。街中では渋滞やどこに向かう車か見当がつかないことが多いので時にはバスや電車を利用して郊外まで移動することも必要だ。信号がある場合は手前ではなく過ぎたところの50m先くらいがいい。車はまだゆっくりと流れているのでとまってもらいやすい。

ヒッチをする時には常に安全を考え、道のできる限り歩道側に寄って向かって来る車を見ながらやることが大切だ。よそ見をしながらやっていると歩道ぎりぎりに車が来たら避けられない。なかなかとまらないと一歩また一歩と車道側に出てしまう人もいるが危険だ。ブロックがわりと目印のためにも前か右横にリュックを置きそれ以上はみださないようにするとよい。安全は自分の責任だ。

そして最も大切なのは通るすべての車にサインを送ることだ。最初の頃はナンバーを見たり運転手や同乗者の様子をみて選んでサインを出したくなるが変な邪推はやめたほうがいい。思ってもいない車がとまってくれることがよくあるからだ。反対側の車線から見ていて用事を済ませて帰りにとまってくれたりもする。ともかく指を立てヒッチハイクしているという雰囲気を常に演出していることがポイントなのだ。

ただしタクシーをヒッチしてはならない。以前、ヒッチしていたらタクシーがとまってしまった。とめたことを謝ったが帰り道だから乗っていけというので世話になった。ところが降りる段になって金を払え、さもなければ警察につれていくと開き直られことがある。警察にいったらこちらの分が悪いことは明らかだ。運転手にヒッチハイクで乗せた覚えがないと約束を翻されれば証明のしようがない。

なかなか停まってくれない場合は場所を変えるか、思い切って1時間くらい休んでリフレッシュしてから再挑戦してみよう。気が滅入るとヒッチハイクは続かない。

高速道路を使う場合はインター選びがむずかしい。歩行者はゲートのアプローチには入れないので、一般道とアプローチの接点でヒッチしなければならない。アプローチが短かったりカーブがきつかったり、一般道の内側に分岐していたりするとお手上げだ。それに車は上りにいくか下りにいくか分からない。インターの構造や性格をよく観察して挑戦しよう。構造的に無理な場合はさっさと諦めるのが得策。

しかしいったんサービスエリアかパーキングエリアに入ってしまえば後は楽だ。エリアから道路に戻る車を待っていれば簡単にヒッチできる。車の方向は決まっているしスピードもでていない。場所は広いし夜は明るい。トイレもあるし食事もできる。野宿もできれば雨が降っても建物に避難できる。インターでうまくいかないときはサービスエリアに直接はいり込むのも一つの手だ。バス停や販売物資補給のための入り口がかならずどこかにある。くぐって反対車線に回ることもできる。

高速道ではサービスエリア(ガソリンスタンドがある)はだいたい50k、パーキングエリアは20kごとにある。インターに降りてしまわないで手前のエリアで降ろしてもらって乗り継げばどこまでも行ける。目的のインターより先にいく車にのった場合はバス停やインターの分岐で降ろしてもらい歩いて外にでればよい。たいていのインターはゲートを通らずにフェンスを超えて外にでられる。

小さなエリアでは深夜に車がいないこともある。だからと言って走行車線にでてヒッチしてはならない。危険だし見つかれば罰金を取られる。そもそも高速走行中の車はとまらない。諦めて朝を待とう。

Copyright(C)1999 小島春彦